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[映画]-2時間1800円の至福- 映画を観よう、幸せになろう

加藤アカネ
“独身の新人ライター”としてスタートしてから5年以上が過ぎ、今ではなんと2人の子供がいる身の上。いまだにそんな自分が時々不思議に思えるほどの自覚のなさですが、元映画宣伝マンの経験を生かして、ジャンルを問わず、いろんな映画を楽しく、わかりやすくご紹介していきたいと思います。よろしくお願いします。

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古今東西、老若男女を問わず、恋は突然訪れる。 「山桜」&「痛いほどきみが好きなのに」

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ちょっと前になりますが、12月に友人の結婚披露宴がありました。新郎新婦ともに私の大学時代の友人で、当時の2人は単なる友人同士。でも、昨春のある集まりをきっかけに、4ヶ月で入籍し(デートはたった4、5回!)、12月の披露宴を迎えたわけです。卒業してそろそろ20年。まさか、今頃こんなことが起きようとは!! 昨年一番の――自分の妊娠・出産以上の――サプライズでした(笑)。そう、すっかり忘れていたけれど、恋は突然訪れるもの。今週は、そんな切ない恋のお話2本です。

「山桜」――江戸後期、北の小国。野江(田中麗奈)は叔母の墓参りの帰り道、1本の山桜を見つける。薄紅色の花を満開に咲かせた、そのあまりの美しさに、思わず手を伸ばすが、届かない。その時突然、後ろから声がかかる。「手折ってしんぜよう」。振り返った野江に、背の高い武士は1本の桜の枝を手渡す。手塚弥一郎(東山紀之)と名乗った男は、かつて野江が断った縁談の相手だった。若くして夫に先立たれ、実家に戻っていた彼女に申し込まれた2つの縁談。母ひとり子ひとりの手塚家よりも、と会うこともないまま磯村家に嫁いだ彼女をいまだに案じてくれていた弥一郎の言葉は、野江の心を優しく満たす。これきりのはずだった2人の出会いは、やがて野江の運命までも変えていくことに……。

「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」「蝉しぐれ」「武士の一分」――ここ数年続く、藤沢周平作品の映画化。本作はその5作目となりますが、実は企画が持ち上がったのは9年も前のことでした。当時、まだ10代の田中麗奈の2本目の主演作「はつ恋」を製作中だった本作のプロデューサー・小滝祥平氏が、彼女主演でいつかは、と考えていたそうです。

その想いが見事に結実。野江を演じた田中麗奈の凛としたたたずまいと、美しく咲き、潔く散る山桜がマッチした美しい映画になりました。私が初めて彼女を見たのは、映画「がんばっていきまっしょい」の女子高生役。役柄同様、高校生だった彼女も今年28歳なのですから、しみじみ、時の流れを感じてしまいます(笑)。

映画にも不思議な時間が流れていました。99分というどちらかと言えば短い作品なのですが、なんだか長いときが流れているような。それは、よくある退屈で長く感じた、ということでは決してなく、ゆったりと静かで、とても心地よいものでした。

実家に戻った自分の存在が弟や妹の縁談の邪魔になってはいけないと、急いで嫁いだ磯村の家は、武士でありながら蓄財に励む夫や舅と、そんな家をとにかく守ろうとする姑のいる、実家とはまるで違うところでした。馴染むことができないまま、たまの里帰りを唯一の心のよりどころとしていた野江にとって、誰かがどこかで自分のことを心配してくれていたということが、どれほど嬉しかったか。野江の表情ひとつで、それが伝わってきます。

その言葉の主、弥一郎は、命を賭して正義を貫こうとする人でした。野江がそんな彼に魅かれていくのは当然のこと。一度は縁があった相手なのに、と思えば思うほど、余計に思い切ることができなくなっていくのかもしれません。

満開の山桜のように、人の生きる姿勢も美しい映画です。言葉に出さないからこそ、伝わるものもある。そんな気がしました。

Movie080509_2 「山桜」 5月31日(土)~、テアトル タイムズスクエア他、全国公開
オフィシャルサイト http://www.yamazakura-movie.com
(c)「山桜」製作委員会


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「痛いほどきみが好きなのに」――ニューヨークに住む20歳のウィリアム(マーク・ウェバー)は俳優の卵。仕事もそれなりに順調で、人生を謳歌していた。そんなある晩、行きつけのバーで出会ったシンガーソングライター志望のサラ(カタリーナ・サンディノ・モレノ)に、彼は一目で恋に落ちる。出会った晩にキスを交わした2人は、そのままつき合い始めるが――。

原作は、俳優イーサン・ホークの書いた自伝的な小説で、本作の映画化にあたって自ら監督・脚本・出演(ウィリアムの父親役)を務めています。「失恋した女性が感じる喪失感や弱さを描いた物語は山のようにあるけど、同じ経験をする男性についての物語は見たことがなかった。だったら自分で書こうと思ったんだ」と言うだけあって、ウィリアムがサラに翻弄される描写がとてもリアルです。

好きになったらすぐにセックスしたいウィリアムと、そこまで踏み込むには慎重なサラ。それは単に男女の違いだけでなく、サラが手痛い過去を抱えていたから、ということもあるのですが。その微妙な気持ちのスレ違いは、次第に埋めようもなく大きくなっていくのです。

「怖くてたまらない。君に好かれているのか自信がない」というウィリアムの想いは、誰しも覚えがあるのではないでしょうか? ある日突然自分に襲いかかり、自分で自分にイライラしてしまうほどの不安を抱えた切なさこそが恋なのですが、そんなことは過ぎてしまった今だからこそ言えること。

好きになればなるほど、追いかければ追いかけるほど、離れていってしまう相手。なぜ、自分と同じだけ愛してくれないのか。いつも不公平な天秤に、やりきれなさが募ります。

そういえば、20歳の頃の彼は今頃どうしているだろう? そんなことをふと懐かしく思い起こしながら、思うようにならない嵐のような痛みをともなう恋を、あなたも一緒に感じてください。

Movie080509_4 「痛いほどきみが好きなのに」 5月17日(土)~、新宿武蔵野館他、全国公開
オフィシャルサイト
http://www.itakimi.jp
(c)2006 By Barracuda films, LLC. All Rights Reserved.

 
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2008-05-09 【映画】 | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)

あなたの“相棒”は誰ですか? 「最高の人生の見つけ方」&「相棒-劇場版-」

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“相棒”って、独特の響きがありませんか? “友人”よりずっと親密で、“親友”よりちょっとクール。対等な関係で、言いたいことはきっちり言うけれど、言わなくてもいいことはそっと胸にしまっておく、ちょっとオトナな間柄。今週は、そんな“相棒”たちの物語です。

「最高の人生の見つけ方」――真面目にコツコツ生きてきた自動車整備工のカーター(モーガン・フリーマン)は、末期ガンで余命6ヶ月と宣告される。入院先で同室になったのが、病院の経営者で辣腕実業家のエドワード(ジャック・ニコルソン)だった。余命6ヶ月という以外、何の共通点もない2人だが、少しずつ会話を交わすように。ある日、エドワードはカーターが落としたメモ、“バケット(棺おけ)・リスト”を見つける。それは棺おけに入る前にやっておきたいことを書き出したものだった。カーターの、「荘厳な景色を見る」「涙が出るほど笑う」に、「スカイダイビングをする」「世界一の美女にキスをする」と付け加えたエドワードは、彼をリスト実現の旅に誘い出す。常に家族を想い、生きてきたカーターだったが、妻バージニア(ビバリー・トッド)の大反対を押し切り、生涯最後の冒険旅行をするために病室を飛び出した――。

J・ニコルソン、M・フリーマン、ロブ・ライナー監督。この3人の名前が並んだだけで、「これはイケル!」と確信してしまった私。予想は裏切られることなく、爽快で痛快で感動的な1時間37分を体験することができたのです。やっぱり(笑)!

もし、平均寿命通りに生きることができたとしたら、私もそろそろ人生の折り返し地点。“棺おけリスト”も、決して遠い未来のことじゃありません。むしろ、早ければ早いほど、人生の終焉を迎えたとき、後悔することが少なくてすむのかも。まあ、わかっていても、なかなか具体的には浮かばないのですが。

カーターとエドワードのリストは、「なるほど」と思うもの、「まったく、男ってヤツは!」とあきれてしまうもの、「なぜ???」なものといろいろ。このリストにも2人の対照的な性格や考え方が現れていて、ついつい笑ってしまいます。

妻や子供たちなど家族の見舞いが絶えないカーターですが、かつてバージニアの妊娠をきっかけに大学を辞めたことへの後悔が、拭いきれません。もちろん、愛する家族たちに囲まれた、幸せな人生だとわかっているのですが。

一方のエドワードは金儲けに人生を費やし、3度結婚するも失敗。病室を訪ねてくるのは主治医と秘書トマス(ショーン・ヘイズ)だけ。いくら財産があっても、あの世には持っていけない。カウントダウンに拍車がかかった人生をどう過ごすのか。最優先だった仕事よりも優先すべきこととは何なのか。彼もまた、自分の過去を見つめ直すことになるのです。

お互いが決断を下す時、グッと背中を押してくれるオトナでコドモな男たち。彼らの関係こそ、“友人”よりも“相棒”と呼ぶのにふさわしい気がします。冒険旅行の果てに何が待っているのか。人生の終焉をどう迎えるのか。決して重苦しくならない彼らの姿にホッとしつつ、ちょっと意外なエンディングにじんわり胸が熱くなりました。

Movie080502_2 「最高の人生の見つけ方」 5月10日(土)~、丸の内ピカデリー2他、全国公開
オフィシャルサイト 
http://www.saikonojinsei.jp
(c)2007 Warner Bros. Ent.

Movie080502_3 

「相棒-劇場版-」――降りしきる雨の中、人気ニュースキャスターの仲島が東京郊外の巨大TV塔に吊るされて遺体で発見される。現場には謎の記号「f6」が残されていた。警視庁捜査一課が頭を悩ませる中、特命係の杉下右京(水谷豊)と亀山薫(寺脇康文)は、海外視察に向う衆議院議員・片山雛子(木村佳乃)の護衛を命じられる。途中、襲われるが、雛子は無事出発。その現場にも「d4」の記号があった。やがて、仲島と雛子は会員制webサイトの掲示板「処刑リスト」に名前が挙がっていたことが判明。リストには2週間前に交通事故死した判事・来生の名前もあった。その事故現場にも「e4」の記号が残されていたことを知った右京は、それがチェスの棋譜であることに気づく。リストを追い始めた捜査陣を嘲笑うように、有名美容整形医・安永も殺害され、現場には「g5」の記号が。やがて被害者たちの周辺から女子大生・守村(本仮屋ユイカ)が浮かび上がる……。

今週のテーマそのものズバリの本作は、ご存知の方も多いと思いますが、TVシリーズから誕生しました。実は、私はこのシリーズが大好きで、シリーズ化される前の1作目、「土曜ワイド劇場」放映時(2000年)から見ていたことが自慢の一つなのです(笑)。ちひろさんと昌子さんのTVブログでも紹介されていましたよね。

TVを見ていた方には今さらですが、簡単にご説明を。あまりに明晰な頭脳と、ガンコすぎる正義感のために上層部に疎まれ、特命係という閑職に飛ばされてしまった元エリート警部の右京。以降、特命係はリストラ要員が次々と配属されては辞職するという“人材の墓場”に。そこにやってきた7人目の刑事が薫。ところが、この2人が名コンビとなり、捜査一課を差し置いて難事件、怪事件を解決する、という設定です。

本作の一番の魅力は、登場人物たちのキャラクターにあります。頭脳明晰・冷静沈着・鋭いイヤミをバシバシ飛ばし(正しいから余計に憎たらしい・笑)、紅茶を愛する右京と、体力勝負・単純明快・直情型で朝はコーヒーに限るという薫。そんなまったくタイプの違う2人と、彼らを囲む、これまた個性的なレギュラーの面々(鈴木砂羽、高樹沙耶、岸部一徳、木村佳乃、津川雅彦、西村雅彦他)。ファンには堪えられない、そして初めて見る方には「え、なんでこの人がこんなチョイ役!?」と思うにちがいない超豪華キャストです。さらに劇場版で初めて登場する西田敏行など、その魅力はさらにパワーアップしています。

彼らが対峙する数々の事件も、時代を映したシリアスな社会問題から、コメディ風、ホラーチック、本格推理まで幅広く、時に毒気タップリなテイストで驚かされてしまいます。今回は、数年前、日本中を論争の渦に巻き込んだある国際的な事件を下敷きにした内容で、事件隠蔽のための国家的陰謀の話は、現実の官僚や政治家の姿を目の当たりにしているようでドキリ。あり得ないことじゃない、と背筋が寒くなるほどにリアルです。

ドラマを見ていた人には、いつもの「相棒」テイストが少し薄まったように感じるかもしれませんが、その分、映画が「相棒」初体験という人にはとっつきやすくなっているのではないでしょうか。爆破シーンや海外ロケなど、映像のスケール感もアップ。「相棒」経験者はもちろん、未経験者もぜひこの機会に「相棒」ワールドを楽しんでください。

Movie080502_4 「相棒-劇場版-」 5月1日(木)~、全国公開
オフィシャルサイト
http://www.aibou-movie.jp
(c)2008「相棒 -劇場版-」パートナーズ

 
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2008-05-02 【映画】 | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)

“自由の国アメリカ”を生きた実在の男たち 「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」&「ラフマニノフ ある愛の調べ」

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アメリカ――と聞くと、つい“自由の国”という枕詞をつけたくなります(まぁ、最近ではいろんな問題が表面化して、単純に“自由”を謳ってはいられないようですが)。今週は時代も国籍も異なりますが、“自由の国”アメリカを生きた実在の男たちの物語です。

「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」――チャーリー・ウィルソン(トム・ハンクス)はテキサス州選出の下院議員。酒と女性が大好きで、再選されたことが唯一の功績と言われるような存在だ。しかし、ソビエト連邦軍に侵攻されたアフガニスタンのニュースを見たとき、彼の中で何かが起きる。国防費歳出小委員会のメンバーだった彼は、アフガニスタンへの密かな加勢費用を倍にするよう働きかける。そんな動きを察知したのが、テキサス州で6番目の大富豪ジョアン(ジュリア・ロバーツ)だった。反共主義者でアフガニスタンの支援活動を精力的に行っていた彼女に難民キャンプを見せられたチャーリーは、決意を新たに、情報収集のためCIAから担当者を呼び寄せる。やってきたガスト(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、切れ者過ぎて出世街道から外れた男だったが、その的確な情報と指南で、小さな動きは大きなうねりを起こし始め――。

久々に登場のT・ハンクス最新作は実話。お気楽議員の義憤がきっかけで、世界が変わったという物語です。膨大な予算で最新兵器を湯水のように投入して隣国に侵攻したソ連。対するアフガニスタンに資金はなく、最新戦闘機に昔ながらの銃で立ち向うのですから、勝負になるはずがない。おもちゃ型爆弾の投下で子供たちまでが無残な目に遭っているのを知ったチャーリーは、何が何でもソ連に一泡吹かせようと決心するのです。

権力も、世界情勢の大した知識もなかった彼が、ガストやジョアンと作戦を立て、自分の人脈を使い、ジワジワとアメリカを動かしていきます。時にコミカルで楽天的にも見える彼の行動が、おもしろいように形を成し、実現していくさまは痛快です。

「自分が息をしている限り、ソ連に自分たちのしたことのつけを支払わせ、アフガニスタン人を助ける」。それまで大した実績もない、単なる頭数合わせのような議員だった彼を決意させたものは何だったのか。チャーリーは少年時代のある出来事をきっかけに、生まれながらに手にしている母国の“自由”と“平等”の意味を実感していました。だから、“自由”を脅かされ、難民としてさまよう人々の状況を許すことができなかったのです。

アメリカに生きる自分だからできること――目的に向って突き進むチャーリーの姿に、彼がいかに母国を信じ、自由と平和に囲まれた日常を大切にしているかが見えてきます。

全編、明るくコミカルなトーン。でも、「9.11」を知っている私は、どうしても拍手喝采だけして見ることができませんでした。考えないではいられません。なぜ、19人のテロリストたちが、アフガニスタンからやってきたのか。それはチャーリー自身の苦いモノローグとして、エンディングを飾ります。もし、ソ連軍撤退後に彼とガストの提案が実現していたら――歴史に「たら」「れば」は禁物ですが――「9.11」はなかったかもしれない。現実のチャーリーは政界を引退しましたが、軽快なエンタテインメントの向こう側の現実は、今なお、続いています。

Movie080425_2_2「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」 5月17日(土)~、日劇1他、全国公開
オフィシャルサイト http://charlie-w.com
(c)2007 Universal Studios. All Rights Reserved.


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「ラフマニノフ ある愛の調べ」――その夜、アメリカのカーネギー・ホールは興奮に包まれた。ロシアから亡命してきた天才ピアニストにして作曲家であるセルゲイ・ラフマニノフ(エフゲニー・ツィガノフ)の神業のような演奏が披露されたのだ。熱狂的な賞賛に、ラフマニノフの友人で主催者のスタインウェイ(アレクセイ・コルトネフ)は、200日で100都市をまわる超人的ツアーを企画。ラフマニノフは妻ナターシャ(ヴィクトリア・トルストガノヴァ)とともに出発する。各地で大成功を収めながらも、日に日に憔悴していくラフマニノフ。故国への望郷の念。新しい曲ができない焦り。優しい妻の励ましも疎ましく、自分の殻に閉じこもってしまう。そんなある日、贈り主不明のライラックの花束が届く。それは、彼にとって忘れることのできない思い出の花だった。一体誰が? 呼び覚まされた懐かしい記憶を胸に、新たな旋律が生まれようとしていた。

コミック、ドラマ共に人気を博した『のだめカンタービレ』に出てきた「ピアノ協奏曲第2番」の作曲者と言えば、「ああ、あの」とすぐわかるかもしれません。超絶的テクニックを駆使して数々の美しい難曲を生み出した彼は、ドから1オクターブ半上のソまで届く(!)ほどの大きな手を持っていたそうです。

その大きな手の持つイメージとは逆に、繊細で神経質な彼は、家庭的にはあまり恵まれていませんでした。裕福だった生家は没落し両親は離婚。才能を認めてくれた恩師とは方針の違いから決別。人妻との熱烈な恋と手痛い失恋。初めて作曲した交響曲の失敗とそれによる神経衰弱。そして、革命を受け入れられなかったがために故国まで失います。その彼が自由な音楽活動を目指し、妻や娘を連れて亡命した先がアメリカでした。

夢と希望を抱いて渡米したのに、生活のため多くの時間を演奏活動に費やさなければならなかったことは、作曲を優先したい彼にとってはとてもつらいこと。才能溢れる音楽家をアメリカは大歓迎しますが、彼の焦燥感は癒されることはありません。もし、違った時代に生まれていたら、と思わずにはいられません。

そんな彼の元に届いたライラックの花。「伝記的な映画ではなく彼の生涯を自由に解釈した愛の物語」とパーヴェル・ルンギン監督が語るように、本作は事実と想像で織り成されていますが、この贈り主不明の花束は事実だそうです。この贈り主が誰だったかという解釈がとってもステキ。悲劇の音楽家であったラフマニノフですが、アメリカにわたってのちの人生は、少しは心穏やかに過ごせたのではないか、と信じたくなります。

1943年、ガンのため、ロサンゼルスで死去した彼は、ニューヨークのロシア人墓地に埋葬されました。自由を求めてアメリカに来ましたが、故郷への想いは断ちがたく、演奏会のギャランティをソビエト領事館に寄付したこともあったというラフマニノフ。今は、もっと自由な国で、自由に音楽を楽しんでいるのでしょうか。

Movie080425_4_2「ラフマニノフ ある愛の調べ」 Bunkamuraル・シネマで公開中、他全国順次公開
オフィシャルサイトhttp://rachmaninoff.gyao.jp
(c)2007 THEMA PRODUCTION JSC   (c)2007 VGTRK ALL RIGHTS RESERVED.

 
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2008-04-25 | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)

アカデミー賞ノミネート作、続々日本公開中! 「フィクサー」&「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」

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先日ご紹介した、2月24日に発表された第80回全米アカデミー賞。日本でも、ノミネート作品が続々と封切られています。今週は、作品&監督&主演男優賞他、多数の部門にノミネートされた2作品のご紹介です。

「フィクサー」――元検察官のマイケル・クレイトン(ジョージ・クルーニー)は、マンハッタンの大手法律事務所の弁護士。しかし、法廷で弁護をしたことは1度もなく、在職15年にも関わらず共同経営者ですらない。彼はフィクサー(もみ消し屋)としてその力を発揮し、上司バック(シドニー・ポラック)もそれ以上を認めようとはしなかった。このまま人生を終えるのか? 思い悩む彼の元に、同僚でトップ弁護士アーサー(トム・ウィルキンソン)の自殺の知らせが届く。農業会社U・ノース社の巨額な薬害訴訟を担当していたアーサーは、ある秘密を握っていたらしい。依頼主のU・ノース社法務部長カレン・クラウダー(ティルダ・スウィントン)と会ったマイケルは、アーサーの自殺に疑惑を抱く――。

原題は主人公の名前そのまま、「マイケル・クレイトン」。ストーリーや設定もスリリングで引き込まれますが、一番の魅力はG・クルーニーに尽きるのではないでしょうか。

夢や野心を抱いて転身したのに、現実は弁護士とはいえないような仕事ばかり。有力なクライアントが犯した軽微な罪を、発覚前に“もみ消し”たり、根回ししたり。その24時間営業の仕事は離婚を招き、10歳の息子の親権をめぐって妻と訴訟の最中。おまけにいとこと始めたレストランも失敗、失踪したいとこが残した8万ドルもの借金を、1週間以内に返済しなければならない。これからの人生を考え直したくもなるというものです。

そんな中、親しかったアーサーが突然、自殺を遂げます。「大きな訴訟を抱えてストレスに耐え切れなくなった」とされますが、マイケルには信じられません。アーサーは何を知っていたのか? 何が起きているのか?

地位も財力もないマイケルが単身で調査し、闘うにはあまりにも巨大な相手。しかも、仲間たちを敵に回すことになるかもしれない。目をつぶっていたほうが、ずっと楽なのです。でも――果たして彼はどんな選択をするのでしょうか?

スリリングな展開の合間に登場する、マイケルの息子を見つめる優しい眼差しに胸キュン。G・クルーニーを初めて見たのは「ER/緊急救命室」の小児科医ダグ・ロス役でしたが、あの時はこんなに大スターになるとは思いもしませんでした(笑)。彼の存在が「ER」を大ヒットに導いたと言えますし、同様に本作も一層おもしろくなっていると思うのです。

主演男優賞にノミネートされていましたが、授賞式前のインタビューではあっさり、「ダニエル・デイ=ルイスしかいないでしょ」(その予想通り、結果はD・D=ルイスでした)。余裕たっぷりで、今や“ハリウッドの兄貴”のような存在のG・クルーニーにとって、受賞するかどうかなんて、もしかしたらどうでもいいことなのかも。次回作は、盟友ブラッド・ピット共演のコーエン兄弟監督作品。華やかなエンタテインメントに徹した作品から、舌鋒鋭いメッセージ色の強い作品まで、今後の活躍がまたまた楽しみな兄貴です。

Movie080418_2 「フィクサー」 日比谷みゆき座他、TOHO系全国公開中
オフィシャルサイト http://www.fixer-movie.com
(c)2007 Clayton Productions, LLC


Movie080418_3

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」――20世紀初頭、ダニエル・プレインヴュー(ダニエル・デイ=ルイス)は一攫千金を夢見て、石油採掘に賭けていた。傍らにはいつも幼い息子H.W.(ディロン・フレイジャー)の姿が。彼の存在は、時に険悪になる交渉をスムーズにしていた。ある日、ポール(ポール・ダノ)という青年が、故郷の土地に石油が埋蔵されているという情報を持ってくる。地元の人々に知らせないまま、土地を安価に買いあさったダニエルは、石油を掘り当てて莫大な財産を手に入れる。しかし、ポールの双子の兄弟で牧師のイーライ(P・ダノ/2役)は、土地を荒らし、教会に寄付をしない彼に反感を持っていた。そんな中、採掘場で起きた爆発事故でH.W.が聴力を失ってしまう。それをきっかけにダニエルはイーライに暴行、2人の間の亀裂は決定的なものになっていく――。

2時間38分という長尺に目を逸らすこともさせないままグイグイ引き込んで、何かを目の前に突きつけるような物語です。試写室を出た時、宣伝担当の方に「どうでした?」と聞かれ、「いやあ……」と絶句してしまった私。何を話していいのやら、何から言っていいのやら、頭の中を嵐が吹き荒れているような気分でした。

タイトルの「ブラッド」には、血族、石油の他にも、いろんな意味が込められているのでしょう。人間の飽くなき欲望と愛憎、疑惑、羨望、裏切りが、華やかなアメリカン・ドリームを体現した“成功”の裏にうごめいています。

ダニエルは、聴力を失ったこととある事件を起こしたことから、息子を遠い寄宿制の学校に預けます。「捨てられた」と思い込むH.W.。ダニエル自身(ある事情からイーライに強制されて)、「息子を捨てた!」と告白します。でも、連れ歩いていたのは計算ずくだったかもしれませんが、赤ん坊の頃からたった1人で育ててきた彼に、本当に一片の愛情もなかったのでしょうか?

そして、厚い信仰心で神の言葉を語り、信者からカリスマ的な存在に祭り上げられていたイーライ。でも、人々が尊敬の眼差しで彼を見つめていたとき、彼は本当に純粋に、神のことだけを考えていたのでしょうか? 

映像やセリフで語られない部分が、“余白”としてたくさん残されているような気がします。財産も地位も名誉も手にしたダニエルが、どんな結末を迎えるのか。信仰に生きたはずのイーライが、最後に頼るものは何なのか。すさまじい迫力で競演しているD・D=ルイスとP・ダノ。2人が繰り広げる背筋の寒くなるラスト・シーンに、あなたは何を感じるでしょうか。

Movie080418_4 「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」 4月26日(土)~、シャンテ シネ他、全国順次公開
オフィシャルサイト http://movies.co.jp
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2008-04-18 | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)

 
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