突然、愛する人を失ってしまったら――「さよなら。いつかわかること」&「悲しみが乾くまで」

愛する人を失う――映画の中でしばしば描かれる悲劇は、私たちが生きる現実世界でも、誰もがいつかは経験する悲しい出来事。その第一報に接した時のショックはもちろん大きいですが、その後の日常を暮らしていくことのほうが、ずっと長くて苦しいのではないでしょうか。それでも人は、前を向いて生きていくことができる――そんなことをそっと伝えてくれる2本です。
「さよなら。いつかわかること」――シカゴに住むスタンレー(ジョン・キューザック)の家族は、妻グレイスと12歳の長女ハイディ(シェラン・オキーフ)、8歳の次女ドーン(グレイシー・ベドナルジク)。妻は陸軍軍曹としてイラクに赴任中で、地元のホームセンターに勤めるスタンレーは、思春期にさしかかった娘たちと3人でギクシャクした毎日を送っていた。そんなある日、妻の戦死の知らせが届く。あまりのショックに途方に暮れるスタンレーは、娘たちにどう伝えていいのかわからない。衝動的に、彼はドーンが行きたがっていたフロリダの遊園地へ車で行くことにするが――。
明るく強い母(姿は出てきませんが)に対し、父はとても頼りなげ。訃報を聞くと、子供たちの下校時間まで、ただ涙を流し続けるだけで、なかなか現実を受け止められないのです。そして、娘たちに黙ったまま、まるで現実逃避のように遊園地を目指します。
姉のハイディはすぐに何かあることに気づきますが、ドーンは素直に喜ぶばかり。父が禁止したイラク戦争関連ニュースをこっそりTVで見ているハイディの姿や、母と約束した「毎日同じ時間に互いのことを想う」ことを、大事に大事に守っているドーンの姿を見ていると、ノドの奥が痛くなってきます。
そしてその痛みは父親の姿にも。旅の途上、何度も自宅の留守番電話に電話をかけるスタンレー。そう、留守番電話のメッセージは、妻の声なのです。カッコ悪いかもしれません。でも、彼がどれほど妻を大切に想っていたのか。夢にも思わなかった彼女の不在は、彼の人生をどれほどメチャメチャにしてしまったのか。そんなことが1つ1つ積み重ねられて、もし自分だったら……と思わずにはいられなくなります。
軍人が戦地に行ったのだから覚悟していたはず――そうかもしれません。報道で何万という人々がイラクで亡くなっていることを、私たちは知っているのですから。でも、その“何万人”に自分の大切な人がカウントされる現実を考えていた人がどれだけいるのか。いいえ、たとえ覚悟していたとしても、その悲しみに違いはないのではないでしょうか。
スタンレーの弟ジョン(アレッサンドロ・ニヴォラ)が、イラク派兵に懐疑的な意見をぶつけてスタンレーとケンカするシーンはありますが、戦争の映像や“戦争反対”の言葉は1つも出てきません。ただ、愛する人を突然失くした家族が、どうやってその悲しみを受け止め、“明日”を迎えるのかを静かに優しく描いているだけ。
だからこそ、大切な人を失くす人々が大勢生まれてしまう“戦争”が、いかに哀しく無意味なものなのかが迫ってくるのかもしれません。主演ばかりでなく、プロデューサーも引き受け、御大クリント・イーストウッドにテーマ曲の作曲まで直談判して実現させたJ・キューザックの、多くの人に見てもらい、考えてもらいたいという熱い想いが素直に感じられます。長い作品ではありません。ぜひ、ゆっくりご覧ください。
「さよなら。いつかわかること」 4月26日(土)~、シネスイッチ銀座他、全国公開
オフィシャルサイト http://www.sayonara-itsuka.com
(c)2007 The Weinstein Company, LLC. All rights reserved.
「悲しみが乾くまで」――夫(デヴィッド・ドゥカヴニー)と子供2人に囲まれ、幸せに暮らすオードリー(ハル・ベリー)を突然襲った、夫の死。葬儀の準備に追われながら、彼女は夫の親友ジェリー(ベニチオ・デル・トロ)のことを思い出す。夫の幼馴染みで、かつては敏腕弁護士だった彼は麻薬に溺れ、誰もが見放したが、夫だけが親身に面倒を見ていたのだ。オードリーも彼を嫌っていたが、葬儀に呼ぶことに。訪ねてきたジェリーの姿に、彼女は彼もまた夫を大事に想ってくれていたことに気づく。葬儀が終わり、日常生活が戻ってきたが、夫の不在を受け入れられないオードリー。耐え切れなくなった彼女はジェリーを訪ね、客間に住んでほしいと頼む。「お情けならいらない」と断るジェリーに彼女はこう告げた。「違うわ。助けてほしいのは私のほう」――こうして、奇妙な共同生活が始まった……。
オードリーを襲った悲劇は、本当に理不尽なものでした。路上で自分の妻を殴りつける男を止めた夫が、その男に射殺されてしまったのです。見ず知らずの男に、何の非もない夫が。そんな現実を受け止めろ、と言われても、簡単に納得できるはずもないですよね。
子供たちを守り、生きていこうと思っても、生活の折々に夫のいない寂しさ、理不尽さを感じて眠れぬ夜を過ごし、ついには子供たちに八つ当たりまでしてしまう。そんな自分をもてあました彼女が、ジェリーに同居を提案するのは一見唐突ですが、ある意味、当然の成り行きだったのかもしれません。
オードリーを演じるH・ベリーが迫力満点。理不尽な現実に混乱し、ジェリーに頼ったり、つらく当たったりという支離滅裂で不安定な精神状態が、リアルに迫ります(3月16日に出産したばかりの彼女は、本作出演で母親になれるという自信がつき、妊娠する決意をしたそうです)。
一方の、彼女を受け止めるB・デル・トロも、それを上回る存在感で圧巻。麻薬患者の、あのどこかを見つめるような目つきには背筋がゾクリ。一時は親友のために必死に更正しようとしていただけに、麻薬の恐ろしさ、哀しさが真に迫ります。
消えることのない大きな傷を抱えた2人が、それでも続く人生を再び歩んでいくために、どう支え合い、どう立ち直るのか。2人の静かな熱演が、ズシリとお腹に響きます。
「悲しみが乾くまで」 3月29日(土)~、恵比寿ガーデンシネマ他、全国順次公開
オフィシャルサイト http://kanashimi.jp
(c)2007 DreamWorks Pictures LLC. All Rights Reserved.
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2008-03-28 | 固定リンク
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