美しくも残酷な許されざる愛の物語──『ラスト、コーション』

けっして惹かれてはいけない相手に、心を奪われそうになる…。殺したい男の胸に自ら飛び込んでゆく、そんな女性の心の動きを、息を呑むほど美しい映像でエモーショナルに映しだす話題作が、この『ラスト、コーション』。
『ブロークバック・マウンテン』に引き続き、ヴェネツィア国際映画祭のグランプリを制した、アン・リー監督の最新作だ。許されない愛に身を焦がす、という点では、『ブロークバック・マウンテン』の姉妹編とも言えるかもしれない。
1940年代、日本占領下の上海。女(タン・ウェイ)は、抗日運動に燃える若きレジスタンス活動家のひとり。彼らのターゲットは、日本の言いなりになっている政権の特務機関で、秘密裏に働くトップの男(トニー・レオン)。しかし、冷酷で抜け目のないこの男に近づく方法はひとつだけ。仲間の誰かが、男を誘惑し愛人となり、暗殺の手引きをするしかない。その任務を、可憐な美貌の持ち主である女が志願するのだ。
女は身元を偽り、まず男の妻に接近し、家に招かれる仲になる。そして男とも言葉を交わすようになり、誘惑のワナを仕掛ける。簡単ではなかったが、男は女と関係を持ち、互いを貪りあうように激しく求め、身体の関係を重ねてゆく。まさに、女の思惑どおりに事は運んでいるかに見えたのだが…。
過激で大胆なセックス・シーンの話題ばかりが先行しているようだけど、エロいだけの官能映画ではないし、ここでのセックスは意味を持つ。女も男も偽りの人生を生きているなかで、肉体だけは偽れない。言葉にできない感情を、2人はセックスで表してゆく。そのセックスによる“人生”描写、2人が背負っている現実の重みや抑え込んでいる感情の激しさは、見ていて痛々しくなるくらいだ。
むしろ、セックスしていない時の2人のほうがエロティック。男の妻やマージャン仲間がいるところで見せる、女から男への目配せや、ほろ酔いの女が男の吸っているタバコを見つめるウットリ目など、こっちまでドキッとしてしまう。
そんな匂い立つような色香を魅せてくれるのが、チャン・ツィイーやスー・チーというスター女優を押し退け、オーディションで選ばれた無名の新人タン・ウェイ。彼女がとにかく魅惑的で、まるでサナギが蝶に変わるように、無垢な女子大生からツワモノの要人さえ惑わす大人の女へと変化する様は圧巻。しかも、目線やしぐさだけで心の動きを表現してしまうのだから、うれしい驚きだ。
もちろん、経験豊富な男がイイ女を育てる。そうした大人の余裕で彼女を引き立てるトニー・レオンの抑えた演技にも注目。冷酷無比な男の役と聞いて正直、似合わないかもと思ったけれど、じつは心に虚無を抱える孤独な男。オンナは陰のある男に弱い、という定石どおり、彼女も彼の痛みや意外な優しさに触れ、ハートを揺さぶられてしまう。
とはいえ、2人は敵対する者同士、真実を知られれば命はない。そんなサスペンスフルで残酷な愛の行方が、美しくせつなく、そしてエレガントに描かれてゆく。テレビじゃ出せない映画ならではの醍醐味が堪能できる、激情のロマンスです。
『ラスト、コーション』 2月2日(土)~シャンテ シネ、Bunkamuraル・シネマほか全国公開
オフィシャルサイト http://www.wisepolicy.com/lust_caution/
(c)2007 HAISHANG FILMS/WISEPOLICY
長いようでアッという間だった約8ヶ月…アクセスしてくださった皆さんに心から感謝です。来週からは、加藤アカネさんが復帰しますので、お楽しみに。
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2008-02-01 【映画】 | 固定リンク
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