もし最愛の人を殺されたら、あなたはどうする?──『ブレイブ ワン』

「ジョディ・フォスターが、最後の一線を越える」というのが売りの、主演のみならずジョディみずからが製作総指揮もつとめる入魂の新作。止むに止まれずモラルを踏み外してしまう女性を映しだし、「あなたは彼女の“選択”を許せますか?」と問いかけ考えさせる人間ドラマが、この『ブレイブ ワン』だ。そんな「自分だったら、どうするだろう?」と思わずにはいられない見ごたえのあるドラマに加えて、“ジョディ=つねに冷静沈着でタフなデキる女”と勝手にイメージしていたのが、ここでは“か弱さ、恐怖、怒り”など、あまり見せたことのない感情的な女性像を演じているのも話題だと思う。
ジョディ演じるエリカは、ニューヨークでラジオ番組のパーソナリティーをしている女性。映画は、結婚を間近に控えたエリカの、まさに幸せの絶頂といった姿から始まる。ところが、フィアンセと共に愛犬の散歩で公園に出かける、といったまったくありきたりな行動が、彼女の未来を奪うのである。散歩を楽しむ2人と1匹は突然、3人の暴漢にからまれ、目を覆いたくなるほどの理由なき暴行を受ける。結果、彼氏は死亡、犬は男たちに連れ去られ、エリカも瀕死の重症を負う。それから3週間後、彼女はようやく意識を取り戻し、やがて身体の傷は癒えてゆくが、心の傷が癒えることはない。彼の想い出とあの惨劇が脳裏をよぎり、外出するのでさえ身がすくむ、恐怖に押し潰されそうになる日々。生きる意味も正義も見いだせないこの世の中で、彼女が選んだのは銃を手にすること。そして、彼女は銃と共に街に出てゆく。モラルを捨てて本能に従う、新たな私として再び生きるために…。
あれほどの目に遭ったのだから、恐れを乗り切るための安定剤として彼女が銃を携帯したくなる気持ちは痛いほどわかる。しかし、銃はお守りではない、凶器だ。彼女も最初は自衛のために発砲してしまうのだけど、徐々にエスカレートしてゆく。そして、悪を正す“謎の処刑人”として世間を騒がしてゆく。そんな彼女の一挙手一投足をとおして、「ワタシも彼女と同じ道を歩むか、否か」をつねに考えさせるというワケだ。
あとになって冷静に考えると、たまたま立ち寄ったコンビニで痴話ゲンカの果てに銃撃事件に巻き込まれたり、地下鉄ではチンピラにナイフを突きつけられたり、と、こんなにニューヨークって都合よく犯罪に遭遇する街だったっけ? とか、初めて銃を手にしたにしてはジョディさん、銃さばきが上手すぎだし身のこなしがプロ並みだよ、と思ったりもするんですが…。ただ、観ている間は、そんなことを微塵も感じさせない、説得力に満ち満ちたジョディの演技力に脱帽! まさに天国から地獄までを味わう女性のさまざまな感情を、すごく生々しく体感させてしまうのだ。劇中で彼女がつぶやく「なぜ、人を撃っても手が震えない? なぜ、誰も私を止めない?」に込められた、失望・不安・哀しみ・空しさなどが入り混じり“揺れる感情”を、ジョディはさりげない表情や仕草、抑えた演技で表わし、こちらの目を奪い胸を突く。
しかも、単に彼女の目線だけで物語を語ってゆくのではなく、モラルの番人で唯一の良心ともいえる刑事マーサー(テレンス・ハワード)の存在が、ドラマにさらなる深みと味わいをもたらしている点もポイント。人としてのエリカにどんどん魅了されていきながらも、“謎の処刑人”は彼女ではないかという疑念も拭えない、彼の“選択”も見どころのひとつ。
正反対の立場にいながらも互いに尊重している、されど本音は語れない、ふくみのある2人のやりとりが、この後どうなる? 次はどうでる? と、こちらを魅きつけて離さない。切ないけれど美しい、心に残るメロディを聴いているかのような、ジョディとテレンスのハートに響く演技を見るだけでも一見の価値アリですよ。
『ブレイブ ワン』 10月27日(土)~サロンパス ルーブル丸の内ほかにて全国順次公開
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