強烈な愛の物語──『ブラック・スネーク・モーン』
公開前に、鎖でつながれた小柄な美女(クリスティーナ・リッチ)と、ごっつい強面の初老の男(サミュエル・L・ジャクソン)の米版ポスターを見て、「こりゃあ飢えた男が美女を監禁&調教するアブノーマル映画か!? しかも、美女はセックス依存症らしい…。めっちゃ観たい」と思っていたのが、この『ブラック・スネーク・モーン』。で、相当アブない映画かも、と期待して観たら、まったく違った(笑)。といっても、“いい意味で”なので、ご安心を。
「調教する」という内容は間違いではないんだけど、放っておくと手当たりしだいに男性を求めてしまう彼女の“忌わしい部分”が、暴走しないようにするための荒療治の手段が鎖というワケなのだ。
この映画の主役2人は一見、まったく接点がないように見える。かたや農業を営み、日々まっとうに暮らす信心深い男。かたや過去のトラウマからセックス依存症になった軽い女。しかし実は、男は突然、妻に浮気され出て行かれた身で、自尊心が深く傷ついている。一方、女も最愛の恋人(ジャスティン・ティンバーレイク)が軍隊に志願し訓練所へ旅立ってしまったため、孤独で心が押し潰されそうになっている。
そんなある日、歯止めが利かなくなった女が、酒と薬でベロンベロンになった上に、知人にボコボコに暴行され道に捨てられる。その意識不明の彼女を偶然、男が見つけるのだ。まるで、傷ついた心が呼び合ったかのような運命的な出会い。男は意識をなくしてもなお、うなされ暴れ回る女の身を案じ、彼女の腰に鎖を巻きつけ、監禁しつつ治療するのである。
当然、目覚めた女は危険を感じ、逃げようとする。だが男は、彼女の抱える心の闇を晴らすことこそ自分の使命と思いこみ“治療”を続けるのだ。そして始まる、心の闇に支配されない本来の自分らしさを、共に取り戻してゆくための苛酷な戦い…。
自分が変われるなんて思っちゃいない女は、全力で抵抗し反発する。それを男は、全身で受け止める。まるで、ヘレン・ケラーとサリバン先生並みの壮絶さ。しかも、こちらは男と女。クリスティーナの誘惑に、サミュエルおじさんもついつい魔がさしちゃうのでは? というスリルまである(笑)。
そしてもうひとつ、鎖以上に二人を結びつける役割を果たすのが、元ブルースマンだったという男がギターを手に歌うブルース! 歌に込められた男の痛みを感じ取ったのか、ブルースによって彼女の心のバリアが解けてゆくさまも見もの。
傷をなめ合うような後ろ向きの関係ではなく、人のためという一方的な関係でもない。相手を癒すことで自分が救われるという、痛みや辛さを歌に託し解放してゆく“愛の歌”ブルースそのもののように、傷だらけで這いずり回りながらも共鳴し合い共に再生してゆく2人の関係。荒っぽくて挑発的、なのに官能的で魅せられる、ホレたハレたの男女の恋愛を超越した、全身全霊でぶつかり合う姿に圧倒される、魂を揺さぶる愛の物語だ。
『ブラック・スネーク・モーン』 9月1日(土)~渋谷シネ・アミューズにて公開
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2007-08-31 【映画】 | 固定リンク
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