見慣れた日常を特別にする──『天然コケッコー』
うーーー、イライラする。電車内の左奥では青年とオジさんがいさかいを起こしている。右向こうでは携帯なれしてないオバさんが大声はりあげ電話中。目の前ではヘッドホンからシャカシャカ耳障りな音モレが…。そんなちょっと前までの淀んだ気分がウソのように澄み渡り、肩の力がスーッと抜けていく映画に巡り合った。
それが、くらもちふさこ原作のコミックを、監督・山下敦弘(『リンダ・リンダ・リンダ』)×脚本・渡辺あや(『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』)が愛を込めて映画化した、この『天然コケッコー』。原作が愛されていればいるほど、その映画化っていうのはむずかしいんだけど、キャラクターの雰囲気、キャラが話すひと言ひと言、セットや小道具へのこだわりなどなど、原作ファンも“動く『天コケ』だ~!”と、感激してしまうようだ。“そっくり”だけど“マネる”のではなく、『天コケ』のイメージを大切に映画にしている。その愛情は、不覚にも原作を読んでないワタシにまで伝わってくるのだから、相当なものだろう。
あたり一面ぐるりと天然色にあふれた田舎の分校。全校生徒は、たったの6人。そこに通う、中学2年生の右田そよ(夏帆)をはじめとする生徒たちの、四季折々の“日常”が、なだらかな時間の流れにのって描かれてゆく。
ただ、それだけ。他の映画のように、世間を揺るがす大事件も、殺伐とした争いも、劇的なロマンスもない、フツーの生活。
7人目の生徒となる東京からの転校生、大沢くん(岡田将生)のイケメンさんぶりにドキドキしたり、話してみたらけっこう無愛想でガッカリしたり。そのモヤモヤを最年少、小学1年生のさっちゃん(宮澤砂耶)にぶつけて落ち込んだり、なにげなく言ったひと言で親友を傷つけちゃって、あとでベソをかいたり…。
他人から見たら“ささいなこと”かもしれないけど、本人にしたら“重大なこと”。そんな誰もが味わったことのある“甘酸っぱい気持ち”が、なんとも心地いいホンワカした空気のなかで映しだされてゆく。
そうそうドラマチックなことなんて起こらないのが、現実だし日常だ。それを、ただつまんないと受け流すか、一見ささいなことに見える出来事をちゃんと心で受け止めるか、はアナタしだい。ここに登場する人たちは、そうしたフツーを心から満喫しているように見える。それは、劇中でそよちゃんが言う「もうすぐ消えてなくなるかもしれんと思やあ、ささいなことが急に輝いて見えてきてしまう」という言葉にも象徴されている。
ゆえに、フツーと言ったって飽きることはない、日々ささいな事件の連続でキラキラしている、とびっきりのフツー。
演じるキャストたちもまたイイ雰囲気で、そよちゃんを演じる夏帆ちゃんは、まさにハマリ役。透明感のある美少女なのに、なんかヌケててオトボケさんなところが笑いを誘う。一方、そよちゃんとは友達以上恋人未満の大沢くんを演じる岡田くんの、テレ隠しでクールぶってる演技もカワイイ。その他、5人の生徒たちも、それぞれチャーミングな個性派ばかり。さらに、初々しい子どもたちの伸び伸びした演技を引き出す、そよちゃんのお父ちゃんには佐藤浩市、お母ちゃんには夏川結衣ら演技派の大人たちの存在も効いている。
加えて、心地よさを倍増させる自然の恵み、そよちゃんたちがしゃべる心なごます方言、そしてレイ・ハラカミの音楽。もー、くるりのエンディング・テーマが流れる頃には、冒頭のイラ立ちなんてどこへやら、安らか気分でゴキゲンだ。そうしたフツーを特別に変えてしまう“ピュアな感性”が息づいている、心が気持ちよくなる映画です。
『天然コケッコー』 7月28日(土)~シネスイッチ銀座、渋谷シネ・アミューズ、新宿武蔵野館ほか全国公開
オフィシャルサイト http://www.tenkoke.com/
関連サイト『天然コケッコー@s-woman.net』 http://www.s-woman.net/tenkoke/
(c)2007「天然コケッコー」製作委員会
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