誰にも言えないほどの秘密を持っていたら……?「あなたになら言える秘密のこと」+アカデミー予想<2>&「善き人のためのソナタ」
悩みや心の痛みを親しい人に打ち明けて、ちょっぴり気持ちが楽になる……そんな経験を持つ人は、きっと大勢いるはず。でも、あまりの深手に、人に打ち明けることすら出来ないほどの秘密があったら……?
「あなたになら言える秘密のこと」――ハンナ(サラ・ポーリー)の毎日は、殺風景なアパートと勤め先の工場の間を往復すること。家族も、友達も、趣味も、将来の夢も何一つない。時々手紙をくれるインゲ(ジュリー・クリスティ)に電話をかけても、無言のまま切るだけ。そんなある日、1日も休んでいない彼女に工場長は1ヶ月の休暇を命じる。仕方なく長距離バスに乗り、見知らぬ町に降り立った彼女は、偶然、油田掘削所で事故に遭った男の看護をすることに。骨折し全身火傷を負い、手術するまでは視力も失うという重傷を負いながら、冗談とユーモアを忘れないジョゼフ(ティム・ロビンス)。彼との会話や、掘削所で働く男たちとの関係は、次第に彼女に笑顔をもたらすようになるが……。
黙々とアパートと工場を往復し、誰とも口をきかず、3度の食事はチキンとライスとリンゴ半分だけ。唯一の贅沢は、アーモンド石鹸を1度だけ使っては捨ててしまうこと――ハンナが、なぜそんな生活を送っているのか。インゲとは誰なのか(インゲは、無言電話がハンナからだとわかっています)。物語は、いきなり謎だらけで始まります。
何の当てもなくやって来た町の食堂で、看護師を探している男を見かけると「看護師です」と、答えるハンナ。これでようやく過去に看護師だったことがわかるのですが、看護相手のジョゼフが重傷にもめげず、無邪気な好奇心いっぱいに彼女の名前や出身地、年齢、容姿、好物などをユーモアたっぷりに尋ねてもはぐらかすばかり。
いったい、彼女はどんな過去を抱えているのか? 先に明かされるのは、掘削所で起きた事故の真実でした。実は、ジョゼフの他にもう1人犠牲者がいたのです。それはジョセフの親友だった男。彼を助けようとして重傷を負ったジョゼフ。そこにも秘密があるのです。
無口で愛想はないけれど親身なハンナの看護は、一見、常にユーモラスに見えたジョゼフが、心に秘めていた切ない痛みをそっと癒していきます。同時にハンナも、ちょっぴりの嘘に真実を混ぜて、少しずつ自分のことを話すことで、何かが変化していくのです。
実は、冒頭でハンナに語りかける少女の声が聞こえます。それは誰なのか。カンの鋭い方ならもっと早く気づくでしょうが、私は最後の最後でやっとわかりました。それは、ハンナが抱える大きな“秘密”。聞くだけで打ちのめされてしまいそうな、“秘密”。彼女の“秘密”は生涯忘れることも、癒されることもないでしょう。それでも、笑ってほしい。癒されてほしい。そう、願わずにはいられません。私たちには遠い国の話です。楽しい話ではありません。でも、知らないままではいけない。知っておいてほしい。希望あるラスト・シーンを見ながら、そんなことを思いました。
「あなたになら言える秘密のこと」 2月10日(土)~、TOHOシネマズ六本木ヒルズ他、全国公開
オフィシャルサイト http://www.himitsunokoto.jp
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「勝手に恒例(笑)! 全米アカデミー賞受賞予想 第2回」
今週は、監督賞&外国語映画賞をご紹介します。まずはノミネート一覧から。
<監督賞ノミネート>(※タイトルの後は、日本公開予定です。)
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 「バベル」(4月GW公開)
マーティン・スコセッシ 「ディパーテッド」(公開中)
クリント・イーストウッド 「硫黄島からの手紙」(公開中)
スティーブン・フリアーズ 「クィーン」(4月GW)
ポール・グリーングラス 「ユナイテッド93」(公開済み)
きっと誰かが言い出すに違いない、と思うのです。「もういい加減、スコセッシにあげようよ」(笑)。今回のノミネートで受賞経験があるのは、C・イーストウッド唯1人(しかも2度)。A・G・イニャリトゥもP・グリーングラスも初ノミネートで、S・フリアーズは10数年ぶりの2度目。一方のM・スコセッシは、ここ数年レオナルド・ディカプリオと組んだ3作連続ノミネートを含め、今年で6度目なのです。名優たちがみな組みたがる、無冠の名監督もそろそろ来るのでは? ということで、私の予想は、M・スコセッシが監督賞受賞で。
<外国語映画賞ノミネート>
「After the Wedding」 デンマーク(公開未定)
「Days of Glory」 アルジェリア(公開未定)
「善き人のためのソナタ」 ドイツ(2月10日公開)
「パンズ・ラビリンス」 メキシコ(今秋公開)
「Water」 カナダ(公開未定)
この賞には日本の「フラガール」のノミネートも囁かれていましたが、残念ながら実現しませんでした。実は予想も何も、この中で今日までに実際に見ることが出来たのは1本のみ(笑)。これで予想もないですが、外国語映画賞は「善き人のためのソナタ」を。今週のもう1本として、ご紹介します。
全米アカデミー賞 オフィシャルサイト http://www.oscar.com
1984年、東西冷戦下の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)の忠実な局員ヴィースラー(ウルリッヒ・ミューエ)は、劇作家ドライマン(セバスチャン・コッホ)と同棲中の恋人で女優クリスタ(マルティナ・ゲデック)が反体制的であるという証拠をつかむように命じられる。ヴィースラーは彼らのアパートの屋根裏を監視室に仕立てると、部屋のいたるところに盗聴器を仕掛け、任務を開始する。しかし、2人の友人で反体制派の演出家イェルスカがドライマンに贈ったピアノ譜「善き人のためのソナタ」を、盗聴器を通して聞いたとき、ヴィースラーの心に何かが溢れ出す――。
ドイツと言えば、ナチスのゲシュタポが有名ですが、東西分断後の東ドイツのシュタージのことはあまり知られていないかもしれません。この組織は、家族や友人のことを密告する人々を“公式協力者”として奨励、その数なんと17万人にも上ったそうです。
身近な人々に密告されるということが、どれほど恐ろしいことか。今、目の前でニコニコ笑いながら話している家族や友人が、もしかしたら自分のことを密告しているかもしれないのです。考えるだけで、ゾッとしませんか?
そんな情勢の中、ドライマンとクリスタの厚い信頼関係も次第に揺らいでいきます。監視を続けるヴィースラーには、その様子が手に取るように見えるのです。そして、それは彼にとって好都合なはずだったのに。
自分のしていることが国を、ひいては国民を守ることだと信じ、職務に忠実だった彼に何が起きたのか。たった1曲のピアノ・ソナタが、人の信条を変えるなんてことがあるのか。いいえ、ヴィースラーは変わったのではなく、心の奥にずっと封じ込めていた何かが、一筋の涙とともに溢れ出しただけだったのかもしれません。
ヴィースラーを演じたU・ミューエの動きの少ない静かな演技が、ドラマに一層の凄みを与えます。実は東ドイツ出身の彼は、壁が崩壊して2年後の2001年、自身の妻であり女優のイェニー・グロルマンが、十数年間自分をシュタージに密告し続けていたことを知ったのでした。その事実がまた、ズンときます(妻はシュタージのねつ造だと否定)。
もちろん、映画そのものはフィクションです。でも、監督フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクは4年もの歳月をかけてリサーチを重ねたそうです。本作が長編映画監督デビューという弱冠33歳。でも、その情熱が映画を通じて世の中を変えていくのかもしれない。そんな重みのある映画です。
「善き人のためのソナタ」 2月10日(土)~、シネマライズ他、全国順次公開
オフィシャルサイト http://www.yokihito.com
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2007-02-09 【映画】 | 固定リンク
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