人類最古の芸能の1つ、ダンスが人生にもたらすもの 「愛されるために、ここにいる」&「オーロラ」

日本最古の歴史書・古事記にある天岩戸(あまのいわと)のエピソードをご存知ですか? スサノオノミコトの乱暴狼藉に怒ったアマテラスオオミカミが天岩戸に引きこもってしまうと世界は闇となり、様々な禍いが発生します。困った八百万(やおよろず)の神々は、アメノウズメノミコトを岩戸の前で踊らせて大いに楽しみ、何が起きているのかとアマテラスが岩戸を少し開けた隙に、彼女を引っぱり出すのです。そう、世界共通の最古の芸能=エンタテインメントの1つはダンスではないでしょうか。今週は、ダンスをテーマにした作品です。
「愛されるために、ここにいる」――父(ジョルジュ・ウィルソン)の跡を継ぎ、執行官になったジャン=クロード(パトリック・シェネ)は51歳。毎日、家賃滞納者などに裁判所の支払い請求を伝え、差し押さえを執行する仕事の足取りは重い。さらに毎週末、老人ホームにいる気難しい父を訪ねるのも、会えば文句でイライラが募るばかりだ。跡を継がせるため、離婚した妻の元で育った息子(シリル・クトン)を事務所に入れても、息子も何かハッキリしない。そんなある日、医者に運動を勧められた彼は、思い切ってオフィスの向かいにあるタンゴ教室に入る。そこで知り合った30代の女性フランソワーズ(アンヌ・コンシニ)と急速に親しくなるジャン。実は、結婚式を控えた彼女は、パーティで新郎とタンゴを披露するために通っていた。仕事を理由に教室に来ようとしない婚約者を大切にしながらも、フランソワーズもジャンに魅かれていき……。
2005年、フランスで公開された本作は、「小さな宝石」と瞬く間に話題を呼び、半年間ものロングランとなりました。
50代の男性と結婚を控えた30代の女性の恋、というとちょっと陳腐かもしれませんが、そこはフランス映画。すでに人生を折り返した年配のくたびれた男性を、ただくたびれただけには見せません。フランソワーズが傾いていくのがわからないでもない――むしろ、婚約者より魅力的かもしれない、人生の機微を知っている男性として描いています。
そして、もうひとつの大きなポイントがタンゴ。もし2人が出会ったのがスポーツクラブだったら(笑)、きっとこんなことにはならなかったでしょう。
日本人にはあまりなじみがありませんが、タンゴを始めとしたいわゆるダンスって、手と手を握り、頬と頬をつけ、ピッタリ密着して踊りますよね。だから、嫌いな人とはパートナーになるのもイヤだし、逆にちょっといいなと思う人が相手だと、余計に気持ちが高揚してしまうのではないでしょうか。
しかも、一方は半世紀に渡る自分の人生に疑問を感じ始め、もう一方は結婚という人生のターニングポイントに立っているのです。そこへ登場したタンゴは、まるで触媒のように2人の接近を急激に進めていきます。
ともにある程度人生経験を積んだ大人の2人が、どんな結論を出すのか。どの結論を出しても、捨てなければならないものがあるのです。それをわかった上で、2人がどうするのか。人生は、何歳になってもその気になれば、新しい道を選ぶことが出来るのでしょうか。それとも? このラストシーンを見て、あなたは「よかった」と思うでしょうか?
「愛されるために、ここにいる」 12月16日(土)~、渋谷ユーロスペース他、全国順次公開
オフィシャルサイト http://www.cetera.co.jp/tango
(c)TS Productions

踊りの天賦の才を持つ「オーロラ」(マルゴ・シャトリエ)は、踊りを禁じられた王国の王女。今日も父王(フランソワ・ベルレアン)の目を盗み、弟王子(アントニー・ムノ)に優美な舞を披露している。そんな娘に頭を痛める夫に、かつてはすばらしい踊り手でありながら、王を愛したために踊ることをやめた王妃(キャロル・ブーケ)は禁を解いてはどうかと提案するが、王に聞き入れる耳はない。一方、王を悩ませるもう1つの大きな問題は、破綻寸前の財政だった。重臣は、オーロラと裕福な異国の王子との政略結婚を進言するが、王には決心がつかない。しかし結局、残りの財産をはたいて婚約者を探すための舞踏会を開くことに。招待状と共に送る肖像画を描くため、画家バンジャマン(ニコラ・ル・リッシュ)が呼ばれるが、彼とオーロラはひと目で恋に落ち……。
タイトルを聞くと、「眠りの森の美女」と思う方もいるかもしれません。でも、これはオリジナル・ストーリー。ルイ14世の時代に創設された世界最古のバレエ団、パリ・オペラ座のトップ・ダンサーたちと、ヒロインに大抜擢されたその付属バレエ学校の新星が出演する本作は、ちょっと変わったバレエ映画です。
何が変わっているのかと言えば、ダンス・シーンが高ぶる感情の表現方法として使われるのはバレエの舞台と同様ですが、ストーリー展開は通常の映画と同じく、セリフや場面で進められていくこと。おとぎ話テイストな物語と幻想的なバレエ・シーンがマッチして、不思議な味わいが楽しめます。
とにかく美しいのが、バレエ・シーン。1シーン、1シーンがまるで1枚の絵のようで、映画を見ているというより、美術館にいるような気分になってしまいそうです。
愛のために、大好きだった踊りを捨てた王妃。そして、愛するがゆえに、踊り続けようと決心した王女。ストーリーは一見単純ですが、ちょっと深読みすると、女性にとってはなかなか考えさせられるテーマかもしれません。
監督は、パリ・オペラ座を取材したドキュメンタリー映画「エトワール」で監督デビューしたニルス・タヴェルニエ。バレエを愛する彼ならではの作品は、バレエ好きな人はもちろん、興味はあるけど舞台を見に行くにはちょっと敷居が高い、なんて思っているあなたにピッタリかも。
「オーロラ」 12月16日(土)~、Bunkamuraル・シネマ他、全国順次公開
オフィシャルサイト http://www.aurore.jp
(c)La Cinefacture/France 2 cinema
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2006-12-15 【映画】 | 固定リンク
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