運命の分かれ道は、さりげなくやって来る――「クラッシュ」&「ミュンヘン」
もし、あの時、こちらを選ばなかったら。今頃どうしていただろう?――一度はそう考えたこと、ありますよね。小さなものも大きなものも、分かれ道は不意にやって来ます。人生が一変するほど大きな分かれ道も、そうとは気づかないくらい、さりげなく現れるのかもしれません。今週は、運命を変えた分かれ道に立った人たちの物語。どちらもハードな内容ですが、見応え十分。誰かと語り合いたくなること必至です。
「クラッシュ」は、クリスマス間近のロサンゼルスが舞台。深夜のハイウェイで、交通事故に巻き込まれたロス市警の黒人刑事グラハム(ドン・チードル)と同僚で恋人のリア(ジェニファー・エスポジト)。その近くで、若い黒人男性の死体が発見される――。
これはストーリーのほんの冒頭。実は、“主人公”は20数名いるのです。野心に燃える地方検事(ブレンダン・フレイザー)とヒステリックな妻(サンドラ・ブロック)。人種差別主義者の警官(マット・ディロン)と彼に眉をひそめる相棒(ライアン・フィリップ)。成功した黒人TVディレクター(テレンス・ハワード)と理知的な妻(サンディ・ニュートン)。護身用の拳銃を買いに行きイラク人と間違われたペルシャ人店主(ショーン・トーブ)と娘(バハー・スーメク)。愛する妻と幼い娘を守るため、必死に働く黒人の鍵屋(マイケル・ペニャ)。差別に我慢できない若い黒人2人組(クリス・“リュダクリス”・ブリッジス&ラレンツ・テイト)――。一見、何の関係もない彼ら。ところが、予期せぬ出来事に襲われ、選んだ道は彼らを繋いでいき、一つの円のような関係を織り成すのです。
いちいち文章に“黒人”“ペルシャ人”と入れたのは、この作品で“差別”が大きなテーマのひとつになっているから。「アメリカって、人種問題がタイヘンだよね。」そう思いますか? でも、それは他人事でしょうか? 心のどこにも、ひとかけらの偏見も差別もないですか? 実は、眉をひそめ、異議を唱える人々も、無意識のうちに差別意識を持っているのかもしれない。そんな心の闇と痛い現実がぐいぐいと突きつけられます。
重く哀しいドラマです。でも、手を握りしめて見入ってしまったのは、ただそれだけじゃないから。次から次へと変化する展開はスリルに溢れ、エンタテインメント性も十分。そして、その先に、小さいながらも救いや希望が見える。まだまだ、人間あきらめちゃいけない。言葉にすれば、そんな気分。心に残る1本です。見逃さないで。
「クラッシュ」2月11日~、シャンテ シネ他、全国で公開
オフィシャルサイト http://www.crash-movie.jp
各映画賞で話題の「ミュンヘン」は、スティーブン・スピルバーグ監督が「シンドラーのリスト」に続いて挑む、実話を元にした“戦争”の物語です。
1972年9月。ミュンヘン・オリンピック開催中、パレスチナ・ゲリラが選手村を襲い、イスラエル選手団11名が殺された。イスラエル情報機関“モサド”は報復を決定。暗殺チームのリーダーに任命されたのは、人を殺したことなど一度もないアヴナー(エリック・バナ)だった。妊娠7ヶ月の妻を残し、4人のスペシャリストと共にヨーロッパに渡ったアヴナーは任務を着々と遂行していく。しかし、それは終りなき“報復”の始まりだった……。
自国の選手たちを殺された怒りから、何の疑問も抱かず任務をこなす5人。でも、パレスチナが“報復”に“報復”で応じ、自分たちが狙われ出すと、歯車がきしみ始めます。自分たちは正しいのか? 任務は終る時が来るのか? 家族の元に帰れるのか……?
“報復”には“報復”があるだけ。誰もがわかっていることです。それでも止められないのは、何故なのか。複雑な長い歴史があることは百も承知ですが、今尚続く紛争を思うと、「人間って愚かだ……」と呟きたくなります。
仲間が次々と殺され、今度は自分かもしれないという考えに取り憑かれるアヴナー。危険は、自分ばかりか家族にまで及ぶかもしれない。もし、あの時、任務を断っていれば。でも、もう過去には戻れないのです。
公開にあたり、イスラエル側からもパレスチナ側からも抗議の声が上がったという本作。見れば、“報復”の連鎖がいかに虚しいものなのかは、十分に伝わって来ると思います。問題は根深いのだと、暗澹たる気持ちに襲われるかもしれません。でも、30数年を経て、この映画が作られたという事実こそが、未来への道しるべなのかもしれません。
「ミュンヘン」 2月4日~、丸の内プラゼール他、全国ロードショー
オフィシャルサイト http://www.munich.jp
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2006-01-31 【映画】 | 固定リンク
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