イギリス現代文学の巨匠、イアン・マキューアンの最新作『土曜日』
今日から4月。新しいクラス、新しい学校、新しい会社と、立場も気分も一新! という人が多いと思います。いつも以上にせわしなく、バタバタしている時期ですね。だからこそ、ほんの少しの読書タイムだけは、静謐なひと時を過ごしてみてはいかがでしょうか?
そんな静かな読書タイムにお勧めしたいのが、現代イギリス文学界を代表する世界的に有名な作家、イアン・マキューアンの最新作『土曜日』。脳神経外科医の「とある土曜日の出来事」を描いた作品です。
設定は2003年、2月の土曜日。優秀な脳神経外科医、ヘンリー・ペロウンが朝4時に目覚めた瞬間から始まります。いつ緊急の呼び出しがかかるかわからない日々が日常化しているヘンリー。しかし、今日は一応休日で、友人とスカッシュをする予定が入っています。隣で眠る妻、ロザリンドは弁護士で、結婚後20数年経った今も、彼女以外の女性は考えられないと心から思うほど、愛する存在です。そして、大人になった娘は詩人に、息子はミュージシャンとなって、それぞれしっかりと自分の世界を見つけています。毎日忙しく、疲れているけれど、地位、お金、家族、健康――何もかもが充足している生活に、ある種の満足を得ているのは確かです。
そんな彼が、まだ起きる必要がない土曜日の早朝に、ふと目覚め、何気なく窓の外に目をやると、炎を上げながらヒースロー空港へ向かう飛行機を目撃してしまいます。
もしかして……テロ!?
幸せな生活を送っていたヘンリーの心によぎった不安は次第に増幅し、不安の予兆は現実の出来事と不気味に重なっていく――。
不穏な予感の中で始まったヘンリーの土曜日には、彼の生きてきた人生まるごとと「今、この時」とがつながっています。テロの脅威、妻や子どもたちとの関わり、友情、仕事、認知症を患っている母の人生、偶然に出遭ってしまうかもしれない“キレる若者たち”。
自分の人生とイギリスの社会情勢とグローバルな問題が、たった1日の中にごちゃまぜに入り組んで響きあう様を、マキューアンは精緻な筆致で鮮やかに描いています。
2001年9月11日の同時多発テロ以降という現代に生きること。実際に起きたテロでは「傍観者」で済んだ幸せな都市生活者の人生にも、あの衝撃的なテロはなんらかの影を落としているのであり、そうでなくても不穏な空気は幸せな生活に、いついかなる時だって潜んでいるのであり、そもそも「幸せな生活」なんてもの自体、脆くてはかないものであり――。
現代に生きることとは、またテロが起こるかもしれないし、起こらないかもしれないという不安の中で生きること。その不安定さは、むろん、テロという怪物に限ったことではなく、日常のあらゆる出来事にも当てはまります。車を走らせれば、事故に巻き込まれるかもしれないし、巻き込まれないかもしれない。娘との久しぶりの再会はうれしい時間になるかもしれないし、冷ややかな時間になるかもしれない。「生きる」ということは、あらゆる「かもしれない」の不安を内包しながら、続けていかざるをえない営みなのです。だからこそ、幸福な瞬間や大切な家族の存在は、かけがえのないものなんですよね。ふだんは、このありがたみを、つい忘れがちですが……。
表面上はたった1日の出来事を描いた『土曜日』という作品ですが、込められた深遠なテーマに思いを馳せるたび、ページをめくる手がとまり、ぼーっと考え込んでしまいました。読み手としては、数日をかけ、じっくり丁寧に味わって読みたい作品です。
『土曜日』(新潮社)定価2310円
イアン・マキューアン 著/小山太一 訳
お勧め度 ★★★★★
★おまけ本
イアン・マキューアン作品の中で、こちらも超名作と名高い『贖罪』を原作とした映画「つぐない」が4月12日から公開予定。最近、文庫本が発売されました。こちらもぜひ!
『贖罪』(上・下)(新潮文庫) 上巻580円 下巻620円
イアン・マキューアン 著/小山太一 訳
『土曜日』『贖罪』を発行している新潮社のサイトはこちら。
http://www.shinchosha.co.jp/
●マガジン見どころ、読みどころ
モア
2008年5月号
今シーズンもまだまだ人気のチュニック。着やすいんだけど、ちょっと“ぽっちゃり”に見える危険もあるアイテムです。みんなのそんな心配を察知した『モア』が、こんな特集を。
史上最ヤセ! -5kg細見えチュニック
「史上最ヤセ!」って強いタイトルですよね。思わず、「おお!」と思っちゃいました。この特集の「今年流ルール」で、チュニックも「すっきりおしゃれ」に着こなせるはず!
BOOK in BOOKは、みんな大好き「コーチ」の新作がずらり。しかも、今月はそれだけじゃなくて、
特別付録 MORE×COACH スペシャルノート
がついています。しっかりとした作りのノートなので、いろいろ使い道を考えてみてくださいね。
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2008-04-01 | 固定リンク
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