ドラマ「あしたの、喜多善男」よりビターな味わいの原作。島田雅彦さんの『自由死刑』
先日、木曜のテレビブログ担当「ちひろ&昌子」さん もとりあげていらっしゃった、フジテレビ系列の連続ドラマ「あしたの、喜多善男~世界一不運な男の、奇跡の11日間」。ちひろさんと同じく、私も俳優・小日向文世さんの大ファンなので「連続ドラマ初主演」を心から祝しており、毎週火曜日夜10時~はワクワクしながら、テレビの前で鎮座しています!
このドラマの原作……というか、原案は、島田雅彦さんの『自由死刑』という小説。10年前に発表された作品です。なぜ原作を原案に言い換えたかと言いますと、ディテールが相当、違っているからなんです。
もちろん、主人公の「喜び多き、善なる男」という名前を持つ喜多善男が、お人よしな性格で、人に流されてばっかりで、いまひとつ冴えない人生を送ってきた人物であり、彼が「自分の人生を閉じる」と決心し、死ぬまでの数日間に「やり残したことをできる限りやろう」とする骨子や、いろんな人が勝手に関わってきて、邪魔が入るのも同じです。
しかし、たとえば、わかりやすい違いを例に挙げると、ドラマは番組編成上に合わせて「11日間」になっていますが、小説では「1週間」。また、登場人物のキャラクター設定も全く異なっていて、松田龍平さん演じるキャバレーのスカウトマンにして、喜多の命と引き換えに保険金を狙う「八代平太」も、ドラマのようにカッコイイ青年ではなくて、怪しげな人脈を持つ中年男性で「タナトス映像」取締役、という設定です。主人公の喜多もドラマでは45歳ですが、原作では30代だし、ドラマの中で妄想シーンに登場する「ネガティブ善男」的な皮肉屋な一面が前面に出ていて、一筋縄ではいかない人物像です。
ドラマより原作のほうがビターな味わい、といった印象を持ちました。
喜多は絶望というほど積極的な感情でもなく、ただ、そうだ、死のう、と決意し、自分自身に「自由死刑」を適用しよう、と思いつく。そして、執行日までの7日間に、全財産とありったけの解放感を手に、自分の人生とは無縁だった「酒池肉林」の限りを尽くそうと考える――。
しかし、酒池肉林には、案外、体力と気力と経験が必要で、酒池肉林に慣れていない喜多が「限りを尽くす」のは困難です。そして「7日間後に死にます」と宣言する喜多の周囲には、怪しく哀しい人物たちがゾロゾロわいてきて、まとわりつき、死ぬ間際の数日間くらい、人に流されることなく自分の意思で動こうと頑張る彼を、さんざん邪魔します。
つまり、「自由死刑」とは、文字通り、死刑を執行するか否かは「自由」であり、無期延期もしくは無罪にすることさえも、当然「自由」だし、したがって、執行日までの過ごし方も、執行者兼受刑者である喜多の意志だけが根拠なのであり、喜多の「自由」であるはずです。
しかし、そうは問屋がおろさない。ひとたび死を決意しても、その死までに数日間の猶予をつけ、しかも、その猶予期間、身体は自由にどこへでも行けて(あるいは、どこへでも連れていかれる余地があり)、「やり残したこと」をやろうとすると、執行日までの日々はスケジュールが詰まってしまい、忙しくなる。そして、他人に関わる隙間を与えてしまうと、執行者兼受刑者である自分自身の思惑とは別の思惑が入り込んで、振り回される。
何より、「自由死刑」は死刑の「執行方法」も「自由」であるから、執行方法を選り好みしていると、迷いのドツボに嵌ってしまう。
かくして、喜多の「自由死刑」までの日々は、鬼気迫りつつ、同時にドタバタとして、哀愁漂うものとなるのです。
ドラマの結末がどうなるのか、私はまったく知りませんが、おそらく、小説のラストシーンとはかなり違うだろうな、と予想しています。もしかすると、表面上は正反対になるかも? と想像 している私です。
とはいえ、小説『自由死刑』とドラマ「あしたの、喜多善男~世界一不運な男の、奇跡の11日間」に通底するテーマは、きっと同じです。
死ぬ自由を行使するって、簡単なようでいて、実はとても難しいこと――。
あれこれと考えれば考えるほど、「死ぬ自由」など使いこなせないし、不自由さを増していくのかもしれません。だったら、その不自由さを受け入れて、不自由の中でジタバタあがき、せめてもの楽しみを見つけるほうが楽、という気もします。「生きる意味」なんて見つからなくても、見つけなくてもいいけれど、自分なりの小さな酒池肉林を集めて、そこそこ楽しく生きていけたらいいな、なんて思いました。
『自由死刑』(集英社文庫)定価700円
島田雅彦 著
お勧め度 ★★★★★
『自由死刑』の詳細はこちらへ。ご購入もしていただけますが、2008年1月29日現在、在庫切れです。重版後の2月8日以降にお求めくださいませ。
http://www.s-book.com/plsql/com2_detail?isbn=4087475336
●マガジン見どころ、読みどころ
シュプール
2008年3月号
年初来の株価下落&円高加速により、なけなしの投資がどんどん目減りして、ガックリきている中沢でございます。そんなわけで、お買い物欲もトーンダウンなのでありますが、『シュプール』ってば罪作り。手に入れたいアイテムがバンバン掲載されています。私を破産させる気か!
この春は私たち、コレ買っちゃいます!
は、ファッション業界の「おしゃれマニア」な皆さまの指名買いアイテムがズラリ。「黒以外は今季のマストキーワード」とある通り、赤、青、黄色、紫、ピンク、緑と超カラフル! ヒッピーテイストのフラワー柄ワンピースも、今シーズン、とっても新鮮です。ちなみに、ジャケットだけは「黒」でもいいみたいですよ。この特集にも掲載されているし、ジャケット特集ページにもたくさん、基本のブラック・ジャケットが出ています。
別冊付録 靴&バッグ「欲しいものだけ」空前絶後!の100ページ
は、タイトル通り、空前絶後の100pからなる小物特集。「欲しいものだけ」なのに100p……。全部買ったら大変ですが、本当にいっぱい新作が掲載されているので、シーズン初めに揃えたい靴&バッグを吟味する際のお供にどうぞ。
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“寿司屋のかみさん”こと、佐川芳枝さんの著作は、s-woman.netの“おいしいもの好き”な編集者さんに教えていただきました。不勉強ながら私は知らなかったのですが、佐川さんのデビュー作『寿司屋のかみさんうちあけ話』は、12年ほど前に渡辺謙さん・室井滋さん主演で「寿司、食いねェ!」というタイトルでテレビドラマになったので、ご存知の方も多いはず。もちろん私もお寿司は大好きだし、故・橋本龍太郎元総理が足しげく通った「お寿司屋さん」の話だと聞いて、早速読んでみました。すると、
今回は
近年、17世紀に生きたオランダの画家、ヨハネス・フェルメールに大きな注目が集まっています。今や「世界的ブーム」と言っていい状況で、もちろん、日本も例外ではありません。美術関連書コーナーを見れば、様々な「フェルメール本」が出版されていますし、昨年はフェルメール作品の中でも「傑作」と言われる「牛乳を注ぐ女」が日本初公開され、話題となりました。
「フェルメールについては結構知っているよ~」という方には、
皆様、2008年、明けましておめでとうございます!
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