今年は漱石本の当たり年? 漱石関連の新書を2冊。『漱石夫妻 愛のかたち』&『直筆で読む「坊っちやん」』
2007年の今年は、夏目漱石の生誕から140年、教職を辞して朝日新聞社に入社してから100年になるそうです。
まあ、よくよく考えるとそれほど「キリのいい年」ってわけでもない気がしますが、現在、江戸東京博物館にて「文豪・夏目漱石―そのこころとまなざし―」<~11/18(日)まで>という大規模な展覧会も開かれているし、漱石関連の新書も2冊、ほぼ同時期に発売されました。今年は文豪・漱石が改めて注目されているんですね。
それで今回は、その新書2冊が(私が漱石好きだというのを差し引いても)滅法面白かったので、まとめてご紹介したいと思います。
漱石の孫、松岡陽子マックレインさんが著した『漱石夫妻 愛のかたち』は、漱石の素顔がわかる貴重な証言集でした。ただし、孫は全員、漱石の死後に生まれているので、陽子さん自身は漱石その人に会ったことはありません。そうしたわけで、陽子さんの母である漱石の長女・筆子や、一時期一緒に住んでいた漱石の妻・鏡子をはじめとした「生前の漱石を知る人々」から聞いた思い出話を集めた内容となっています。
陽子さんは後世に伝えるため、意識的に証言を集めており、また、彼女自身、学者であることが影響しているのか、非常に丁寧に「証言の収集」をされているので、価値ある1冊だと思います。
家族が「お父様の病気」と呼んでいた、漱石の心の病の原因を探ったり、祖母であった漱石の妻・鏡子の「悪妻説」についても、実際に接した鏡子の姿を証言しつつ、なぜそうした説が広まったかを分析。故人の名誉を挽回するに足るエピソード満載で、肉親ならではの視点に心温まりました。鏡子お祖母さんから、漱石の悪口を聞いたことは一度もなかったという話も興味深かったです。
ちなみに、心の病から、突然カンシャクを起こす漱石にビクビクしていた子供たちだったけれど、気分が良い時の漱石は、やさしく、愉快な父親であった様子。特に「漱石の入浴失敗談」というエピソードが良かったなあ。お風呂が初めて家に来た日、今か今かと待ちわびていた漱石が、まだ下のほうの水は冷たいのに、勢い込んでお風呂に飛び込み、冷たさに「ひゃっ」と叫んで、素っ裸で飛び跳ねながら部屋に戻った。その姿を見て、家族も漱石自身もお腹を抱えて笑ったそう。明治の家族の、微笑ましくて幸せな光景ですね。
もう1冊は、なんと、漱石自身の肉筆原稿をオールカラーで楽しむ(!)という、画期的趣向の『直筆で読む「坊っちやん」』です。
親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている――。有名すぎるこの一文で始まる「坊っちゃん」。名作中の名作です。しかし、本書で解説を書いていらっしゃる秋山豊さん(岩波書店「漱石全集」編集に関わった編集者)によると、直筆原稿を目を皿のようにして通読した人は、多く見積もっても6人程度だ、と書いています。著作権が切れた今では、様々な出版社から出版されている「坊っちゃん」ですが、その元は直筆原稿の「坊っちやん」ではありません。つまり、漱石による正真正銘のオリジナルを知る人はほとんどいない、ということです。
誤字、脱字が多く、癖字が強い作家として知られる漱石ですが、この原稿を熟読してみると、例えば、どうやら「小供」と「子供」を書き分けていることが見て取れるそう。どう書き分けているのかは、本書の解説を読んでいただくとして、しかし、誤字、脱字、癖字が多いことで、漱石の「几帳面に書き分けた意識」は見過ごされ、また、本人自身も書き分けたわりに無頓着だったのか、各出版社が校正した後、表記は「小供」もしくは「子供」に統一されて発表されました。しかも出版社によって表記の基準はそれぞれ異なっているそうです。つまり、私たちが読んだ「坊っちゃん」と漱石の書いた「坊っちやん」はちょっと違うわけですね。
驚くべき事実は、他にもあります。四国・松山の方言をよく表している「~ぞなもし」という名文句。これもどうやら、漱石自身の思いつきではなく、盟友・高浜虚子の赤入れによるものだったらしい。というのも、原稿に足されている赤い文字の「ぞなもし」は漱石の筆跡ではなく、虚子の筆跡である可能性大だから。びっくり仰天です!
といった、知られざる「坊っちやん」誕生までの舞台裏を楽しめます。漱石の癖字一覧表(?)もついているので、直筆原稿通読にチャレンジも出来ます。えーっと、私は途中で挫折しましたが……。
それから、こちらも漱石の孫で、長男・純一の息子である夏目房之助さんがエッセイを寄せていらっしゃいました。ちなみに、房之助さんも直筆原稿通読に挫折したそうです。ちょっとホッとしました。
『漱石夫妻 愛のかたち』(朝日新書)定価735円
松岡陽子マックレイン著
お勧め度 ★★★★★
『漱石夫妻 愛のかたち』を発行している朝日新聞社出版局のサイトはこちら。
http://opendoors.asahi.com/
『直筆で読む「坊っちやん」』(集英社)定価1260円
夏目漱石 著
お勧め度 ★★★★★
『直筆で読む「坊っちやん」』の詳細はこちらへ。ご購入もしていただけます。
http://www.s-book.com/plsql/com2_detail?isbn=9784087204148
●マガジン見どころ、読みどころ
エクラ
2007年 12月号
創刊第3号を迎えた『エクラ』。ますます面白くなってきました!
大特集 世界でただひとつ。「オーダー」こそ大人の特権
は、「バーバリー・トレンチコート」のご注文報告記、ジュエリーのオーダー&リフォーム例、オーダー上手な香港エクラのお話などなど、「誂える」ことの魅力が伝わる、読みごたえたっぷりの特集でした。確かに贅沢だけども、価格に見合う満足と快適さを得られる楽しみは、大人ならでは、ですね。「オーダーメイド・レストラン」という記事も興味深かったです。
恒例の「別冊付録 極上通販 エクラプレミアム」は
エクラ厳選おいしいもの通販 冬のこだわり美味をお届けします
と題して、ワインにぴったりの「上野万梨子さんおすすめチーズセット」、金沢の料亭自慢の逸品「銭屋 能登豚みそ漬け」などなど、和洋中、厳選の「おいしいもの」がずらり。甘いもの好きの私としては、マクロビオティックのヘルシーアイス「CHAYA Macrobiotics アイス クーテ」に特に心惹かれました。コクがあって甘いのに、超ヘルシー。なんて素敵! 6つの味が入って3445円でした。お取り寄せしちゃおっと。
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2007-11-06 | 固定リンク
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