数奇な人生を丁寧に追ったノンフィクション『マダム貞奴―世界に舞った芸者』
日本初の職業女優、マダム貞奴。『マダム貞奴―世界に舞った芸者』は、明治時代、欧米の有名人となった彼女の数奇な人生をたどったノンフィクションです。「GEISHAスター」として人気を博した貞奴については、本当にざーっくりとした知識しかなかった私ですが、「貞奴って、ものすごい人生を生きたんだなあ」と改めて驚いており、驚き覚めやらぬまま、この文章を書いている次第です。
富豪の家に生まれた「貞」の運命は、幼少から波乱続きでした。実家は没落し、限りなく「人身売買」に近い条件で芸妓置屋の養女に。美人で賢く、歌も踊りも上手かった「貞」は「小奴」としてメキメキと頭角を現し、瞬く間に当代きっての芸妓へ上り詰めます。時の首相、伊藤博文という、これ以上望むべくもない強力な後ろ盾を得て、芸妓として順風満帆の日々を送る小奴。ただし、最愛の人、桃介との恋は諦めざるをえませんでした。そんな彼女が、オッペケペー節で一世を風靡していた役者、川上音二郎と出会い、運命の歯車はますます急回転していきます。
破天荒な性格でお金と女にだらしない音二郎だったけれど、かなりの男前でカリスマ性がありました。彼と結婚し、夫を支える妻として静かに生きるつもりだった貞が、なぜアメリカへ渡ることになり、「貞奴」として女優デビューし、ヨーロッパでも大評判になったのか。このあたりのストーリーこそ本書の醍醐味なので、あえて割愛させてもらいますが、とにかく「女優・貞奴」の冒険譚は信じがたいほどミラクルです。
海外に行く日本人なんて、本当に数少なかった時代に、貞奴はたくさんの都市を訪れており、移動距離もむちゃくちゃ長い。一文無しになったかと思えば、豪奢な一流ホテルでスター然として過ごしたり、ロシアのニコライ2世に謁見したり。
芸妓時代の「小奴」を囲む豪華絢爛の人脈も凄いですが、1900年、パリ万国博覧会で一躍有名になった後の人脈も、フランス大統領からパブロ・ピカソ、イサドラ・ダンカン、ロダンなど、錚々たる顔ぶれ。彼女が欧米で接した人々の名前から、彼女がいかにあちらで脚光を浴びていたかが、よくわかります。
音二郎と貞奴の舞台は“ハラキリ”満載で、「欧米から見たエキゾティック日本」をなぞった内容で、日本人から見ると奇妙なシロモノでした。しかし、かの地でウケる要素を凝縮し、工夫を重ねて舞台を作り上げていった手腕は、やはり評価すべきでしょう。日本への誤解を助長した面はあったでしょうが、目の前で舞う貞奴の姿を通して、浮世絵の中の日本ではなく、実際の日本を知る機会を与えたのは事実です。そして、欧米から持ち帰った近代演劇のスタイルを日本で試し、女性が舞台の上に立つきっかけを作るなど、いろいろな意味で貞奴と音二郎は、エポックメイキングな存在だったのは間違いありません。
音二郎の死後は、福沢諭吉の娘婿として、また投資家として成功を収めていた桃介と再会し、公然の愛人として仲むつまじく晩年を過ごしたという貞奴。心穏やかな時間があったのは何よりですが、桃介の死に際しては、愛人らしく、切ない見送りとなりました。
著者のレズリー・ダウナー氏は、欧米に散逸している膨大な史料に目を通し、本書をまとめあげました。そのかいあって、当時、貞奴が欧米でどのように受け止められのか、またそのことを彼女がどのように受け入れ、責任を果たしていったかが、浮き彫りになっています。貞奴はずば抜けて強く、賢い女性でした。ふわふわと神秘的な「マダム貞奴」は、彼女が欧米に向けて意識的に演じた「役柄」であり、彼女はその役を完璧に演じきった。冒険の日々を生き抜いた彼女に、改めて惜しみない賛辞を送りたくなる一冊です。
『マダム貞奴―世界に舞った芸者』(集英社)定価2625円
レズリー・ダウナー著
木村英明 訳
お勧め度 ★★★★☆
『マダム貞奴―世界に舞った芸者』の詳細はこちらへ。ご購入もしていただけます。
http://www.s-book.com/plsql/com2_detail?isbn=9784087734584
●マガジン見どころ、読みどころ
バイラ
2007年12月号
もう来年のカレンダーが雑誌の付録につく時期ですね。今年の『バイラ』は、こうきたか!という感じです。
犬・ネコ両A面2008カレンダー
は犬派、ネコ派ともに満足できるカレンダー。おまけとして犬ページ、ネコページそれぞれに一枚、パンダ写真も入っています。バリバリのネコ派の私も、パンダはやっぱり大好きだから、思わずニッコリ。犬、ネコ、パンダ。最強のカレンダーですニャー。
駆け込み!「靴&バッグ」最終便
は、パリコレに集まったファッション業界人のバッグチェック、「靴&バッグ」の最強セット買い提案など、多角的な内容。私は「バッグの中身、拝見!」的ページが何より好きなので、スタイリストの辻直子さんをはじめ、8人が「バッグの中身」を公開してくれたページに釘付けでした。モデルのSONOMIさんが、私もここでご紹介した文庫本『ザ・プレイ』を持っていたので、ちょっと親近感を持ちました♪
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2007-11-20 | 固定リンク
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