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[本&雑誌&マンガ]-ライター中沢明子がナビゲート!- BOOK&MAGAZINE クルージング

[本&雑誌&マンガ]-ライター中沢明子がナビゲート!- BOOK&MAGAZINE クルージング

中沢明子
ライター。1969年東京都生まれ。インタビューやルポルタージュを手がけたり、書評を書いたり、近所の猫にちょっかい出したり。毎日、必ずどこかの本屋に出没し、いつも重い荷物を持っている。雑誌好きとしても局地的に有名で、週刊誌AERAにて「マガジン百名山」連載中。

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『ミシュランガイド東京2008』『東京最高のレストランガイド2008』『ザガットサーベイ東京のレストラン2008』を読み比べ!

Book112701 いやあ、すごかったスねぇ。あの、世界でもっとも有名なレストランガイドブック、ミシュランガイドが東京進出、しかもアジア初進出ということで、『ミシュランガイド東京2008』 発売前後は、テレビ、新聞、雑誌、メディアあげての大騒ぎでありました。それだけ、ミシュランの星を獲得することは、いろんな意味で影響が大きいってことなんですなあ。

さて、そんな『ミシュランガイド東京2008』ですが、賛否両論があることも周知の通りかと思います。口うるさい(?)グルメさんたちから「あの店が入ってないじゃないか!」「なんであの店が入ってるんだ!」などなど、数々の指摘が沸き起こっております。
そこで、ちょっとしたご馳走も「旨い!」と感激してしまう、経済的に非常に限りがあり、庶民的で平凡な舌を持つ不肖・中沢が話題の『ミシュランガイド東京2008』を筆頭に、『東京最高のレストランガイド2008』『ザガットサーベイ東京のレストラン2008』と、3つのレストランガイドを読み比べてみました! 
ちなみに読み比べようと『ミシュランガイド東京2008』を買いに行ったら、近所の書店はどこも売り切れ……。本を手に入れるため、わざわざ六本木まで出向きました。そうしたら、レジに並んだ人全員がこの本を手にしてました(マジで)。ひええ! おそるべし、『ミシュランガイド東京2008』! と改めて驚愕です。

まずは主役の『ミシュランガイド東京2008』。フランス人と日本人5人からなる匿名調査員が選んだレストランに、最上で三ツ星を与える方式です。報道でさんざん宣伝されたのでもうご存知だと思いますが、三ツ星レストランは8店。しかし、リストアップされた店名を見て、最初に私が思ったのは「あれ? 意外性がないな」でした。いえね、ひとつも行ったことはないんですけどね、「旨い店」「高級店」として非常に有名どころばかりなのが……少しひっかかります。
それから説明文がやや固く、通りいっぺんで、一言で言うと、文章に血が通っていない印象あり。また、私はグルメじゃないけれど、オムライスやハヤシライスといった「洋食」と「焼肉」だけは若干うるさいの。だから、浅草など下町にある、激ウマ高級洋食屋さんがリストから抜けており、焼肉店が1店もリストに入っていない点は大いに不満です。
もちろん、星2つ以下のお店には知らないお店もたくさん載っていて「今度行ってみたいな」と思ったし、比べた3冊の中では唯一、写真もあるのでイメージしやすい、という利点がありました。
それから、もともとドライバーのために作ったガイドブックということで、現在も宿泊施設のリストと評価が付記されているのも本書の特徴です。ところが、こちらのリストはおまけ以上でも以下でもなく、ランクは当たり前過ぎるし、説明文もおざなり。「本当に泊まってみましたか? ホテルの広報担当に話を聞いただけじゃないですか?」と問いただしたいレベルです。この点、猛省を求めたいです。

『東京最高のレストランガイド2008』は、食通のプロが厳選したレストランをピックアップしたガイドブックとして、7年前から出版されており、日本の有名レストランガイドブック『東京いい店うまい店』と並んで、根強いファンがいます。
食通の5人がそれぞれ、自分の好み、評価基準を明らかにしており、総合ランキングと各人のランキングを別に発表している点がユニークです。華のある店にポイントを高くする人、そこはあまり気にしない人など、個性がハッキリしているので、共感するプロの評価を重点的に信頼する、といった読み方ができます。各人の熱くプロらしいコメント、5人の座談会も読みどころで、本書には写真がありませんが、読んで楽しい、生き生きとした1冊です。ちなみに、ミシュランで三ツ星を獲得している某店について「注記」に「無愛想は天才だからこそ許される。真似せぬよう」とあり、緊張を強いる(?)雰囲気があることを知らせています。頑固一徹型の大将は怖いから苦手……という読者には参考になりますよね。
うれしいことに、私の重要項目「焼肉」からもピックアップされており、都内広範囲にわたるリストである点も高ポイントでした!

最後に『ザガットサーベイ東京のレストラン2008』。恐縮ながら、他2冊と比べると信頼性と読み応え、共に劣るといわざるをえません。本書は約5000人の自称グルメな素人さんによる投票結果をまとめたもので、他2冊のリストと重なる店もあれば、ぜーったいに入らない店もあり(私ですら、この店は旨くないとわかり、値段も全く見合っていない、と感じた店が入っていたほど)、つまり評価基準が曖昧でリストアップされたレストランにバラつきがある。私の重要項目「焼肉」が入っているのは良かったけれど、「なぜ、あの店が入っていないのだ?」という謎があり、「洋食」も左に同じでした。評価者たちのコメントも、どこかの情報誌からひっぱってきたような借り物感があって、やはり何事も「プロの目」「プロの技」が必要なのかな、と思いました。
唯一、他2冊より良い点は、かなりリーズナブルなお店も入っていること。ちょっと友達と食べに行こうか、なんて時に重宝かも? ま、そんな時、今のご時勢、インターネットで適当に探しちゃう気もしますけどね……。

結論から言うと、今回ご紹介した3冊のうち、1冊だけ買うとすれば、私は断然、『東京最高のレストランガイド2008』をお勧めしたいです。顔も名前も業界では知れわたっている猛者5人ですから、レストラン側も多少サービスしているかも?という可能性は捨て切れませんが、署名で潔く勝負を賭けている点に、私からの清き一票(?)を捧げたいと思います。


三ツ星★★★
『東京最高のレストランガイド2008』(ぴあ)定価1575円
浅妻千映子/大谷浩己/来栖けい/森脇慶子/横川潤 著

『東京最高のレストランガイド2008』を発行している「ぴあ」のサイトはこちら。
http://www.pia.co.jp/pia/index.html

一ツ星★
『ミシュランガイド東京2008』(ミシュランタイヤ)定価2310円

『ミシュランガイド東京2008』を発行しているミシュランタイヤのサイトはこちら。
http://www.michelin.co.jp/

星なし
『ザガットサーベイ東京のレストラン2008』(CHINTAI)定価1680円

『ザガットサーベイ東京のレストラン2008』を発行しているCHINTAIのサイトはこちら。
http://www.chintai.jp/index.html

*今回は長文になってしまったため、「マガジン見どころ、読みどころ」はお休みします。

 
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2007-11-27 | 固定リンク | コメント (0)

数奇な人生を丁寧に追ったノンフィクション『マダム貞奴―世界に舞った芸者』

Book112001 日本初の職業女優、マダム貞奴。『マダム貞奴―世界に舞った芸者』は、明治時代、欧米の有名人となった彼女の数奇な人生をたどったノンフィクションです。「GEISHAスター」として人気を博した貞奴については、本当にざーっくりとした知識しかなかった私ですが、「貞奴って、ものすごい人生を生きたんだなあ」と改めて驚いており、驚き覚めやらぬまま、この文章を書いている次第です。

富豪の家に生まれた「貞」の運命は、幼少から波乱続きでした。実家は没落し、限りなく「人身売買」に近い条件で芸妓置屋の養女に。美人で賢く、歌も踊りも上手かった「貞」は「小奴」としてメキメキと頭角を現し、瞬く間に当代きっての芸妓へ上り詰めます。時の首相、伊藤博文という、これ以上望むべくもない強力な後ろ盾を得て、芸妓として順風満帆の日々を送る小奴。ただし、最愛の人、桃介との恋は諦めざるをえませんでした。そんな彼女が、オッペケペー節で一世を風靡していた役者、川上音二郎と出会い、運命の歯車はますます急回転していきます。

破天荒な性格でお金と女にだらしない音二郎だったけれど、かなりの男前でカリスマ性がありました。彼と結婚し、夫を支える妻として静かに生きるつもりだった貞が、なぜアメリカへ渡ることになり、「貞奴」として女優デビューし、ヨーロッパでも大評判になったのか。このあたりのストーリーこそ本書の醍醐味なので、あえて割愛させてもらいますが、とにかく「女優・貞奴」の冒険譚は信じがたいほどミラクルです。
海外に行く日本人なんて、本当に数少なかった時代に、貞奴はたくさんの都市を訪れており、移動距離もむちゃくちゃ長い。一文無しになったかと思えば、豪奢な一流ホテルでスター然として過ごしたり、ロシアのニコライ2世に謁見したり。
芸妓時代の「小奴」を囲む豪華絢爛の人脈も凄いですが、1900年、パリ万国博覧会で一躍有名になった後の人脈も、フランス大統領からパブロ・ピカソ、イサドラ・ダンカン、ロダンなど、錚々たる顔ぶれ。彼女が欧米で接した人々の名前から、彼女がいかにあちらで脚光を浴びていたかが、よくわかります。

音二郎と貞奴の舞台は“ハラキリ”満載で、「欧米から見たエキゾティック日本」をなぞった内容で、日本人から見ると奇妙なシロモノでした。しかし、かの地でウケる要素を凝縮し、工夫を重ねて舞台を作り上げていった手腕は、やはり評価すべきでしょう。日本への誤解を助長した面はあったでしょうが、目の前で舞う貞奴の姿を通して、浮世絵の中の日本ではなく、実際の日本を知る機会を与えたのは事実です。そして、欧米から持ち帰った近代演劇のスタイルを日本で試し、女性が舞台の上に立つきっかけを作るなど、いろいろな意味で貞奴と音二郎は、エポックメイキングな存在だったのは間違いありません。
音二郎の死後は、福沢諭吉の娘婿として、また投資家として成功を収めていた桃介と再会し、公然の愛人として仲むつまじく晩年を過ごしたという貞奴。心穏やかな時間があったのは何よりですが、桃介の死に際しては、愛人らしく、切ない見送りとなりました。

著者のレズリー・ダウナー氏は、欧米に散逸している膨大な史料に目を通し、本書をまとめあげました。そのかいあって、当時、貞奴が欧米でどのように受け止められのか、またそのことを彼女がどのように受け入れ、責任を果たしていったかが、浮き彫りになっています。貞奴はずば抜けて強く、賢い女性でした。ふわふわと神秘的な「マダム貞奴」は、彼女が欧米に向けて意識的に演じた「役柄」であり、彼女はその役を完璧に演じきった。冒険の日々を生き抜いた彼女に、改めて惜しみない賛辞を送りたくなる一冊です。

『マダム貞奴―世界に舞った芸者』(集英社)定価2625円
レズリー・ダウナー著
木村英明 訳

お勧め度 ★★★★☆

『マダム貞奴―世界に舞った芸者』の詳細はこちらへ。ご購入もしていただけます。
http://www.s-book.com/plsql/com2_detail?isbn=9784087734584

Book112002 ●マガジン見どころ、読みどころ

バイラ
2007年12月号

もう来年のカレンダーが雑誌の付録につく時期ですね。今年の『バイラ』は、こうきたか!という感じです。
犬・ネコ両A面2008カレンダー
は犬派、ネコ派ともに満足できるカレンダー。おまけとして犬ページ、ネコページそれぞれに一枚、パンダ写真も入っています。バリバリのネコ派の私も、パンダはやっぱり大好きだから、思わずニッコリ。犬、ネコ、パンダ。最強のカレンダーですニャー。
駆け込み!「靴&バッグ」最終便
は、パリコレに集まったファッション業界人のバッグチェック、「靴&バッグ」の最強セット買い提案など、多角的な内容。私は「バッグの中身、拝見!」的ページが何より好きなので、スタイリストの辻直子さんをはじめ、8人が「バッグの中身」を公開してくれたページに釘付けでした。モデルのSONOMIさんが、私もここでご紹介した文庫本『ザ・プレイ』を持っていたので、ちょっと親近感を持ちました♪

 
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2007-11-20 | 固定リンク | コメント (0)

旅先に持って行く物を決めること。それが難問だ。『女の旅じたく』

Book111301 早いもので、今年もあと2ヶ月を切りました。そろそろ年末年始の計画を立て始めた方もいらっしゃるのでは? 海外から故郷まで、旅に出かける人も多いと思いますが、旅行前の懸案事項といえば、そう、「旅じたく」であります。
皆さんは「旅じたく」、得意ですか? あれこれ迷わず、サクサクとパッキングできちゃいます? 実は私は「旅じたく」がとっても苦手なんです。ふだんもポーチにぎっしり詰める性格なので、旅なんつったら、もう大変。ティッシュは多めに、洗濯するかもしれないから洗剤も、乾かすかもしれないから洗濯ばさみも、寒いかもしれないからパーカをもう1枚、夜はゆっくりスキンケアしたいから、パックを宿泊日数にあわせて用意して……自分では厳選しているつもりなのに、キリがありません。で、小荷物派の友達を見て、自分の荷物の多さに驚く。きっと私は旅先に「安心」を持っていきたいんですね……。

ことほどさように、「旅じたく」には、その人の性格やライフスタイルが如実に表れるもの。岸本葉子さんの『女の旅じたく』を読んで、そんな「自分の旅じたく」について改めて考えさせられました。
たとえば岸本さんは、パジャマは絶対持って行く派。だけどもちろん、できるだけ荷物は減らしたい。となると、減らすアイテムは何をターゲットにするべきか。最初の標的は化粧品です。メイクアップ系は極力ミニサイズを選び、液体物はスポイトで小さなボトルに、きっかり日数分を入れ替える。そんなふうに、ちまちまと(?)努力してきた岸本さんを尻目に、同行の友人はローションをドーンとボトルごと持って来て、バシャバシャたっぷり使っている。それを見て、岸本さんは「その迫力に、私は敬服してしまう」と書いていらっしゃいました。
岸本さんにとって、譲れなかったのはパジャマ。友人にとって、譲れなかったのはローション。我と彼女との間に確実に横たわる、目に見えないボーダーライン。それって一体、何だろう?

着る服や持って行く物を取捨選択し、お土産用空きスペースを確認して。旅の楽しみは計画段階から始まりますが、パッキングしている時こそ、ワクワク気分最高潮の時間ではないでしょうか。と考えると、私がやたらパッキングに時間をかけてしまうのは、そうしたワクワク気分をできるだけ長く享受したいからなのかも、と思った次第です。ま、単に優柔不断なんですけどね。
そして、「旅じたく」は「持って行く荷物」に限った話ではありません。新聞や宅急便屋さんに不在連絡をし、仕事や冷蔵庫の中身も片付けるなど、出発前の用事って案外、たくさんあるものです。岸本さんもなんだかんだで、用事が多いタイプらしいですが、いずれにせよ、それもこれもひっくるめての「旅じたく」であります。
本書を読んで、ぜひ「自分の旅じたく」について一考してみてくださいね。

『女の旅じたく』(角川学芸出版)定価1470円
岸本葉子 著

お勧め度 ★★★☆☆

『女の旅じたく』を発行している角川学芸出版のサイトはこちら。
http://www.kadokawagakugei.com/

Book111302 ●マガジン見どころ、読みどころ

シュプール リュクス
2007年 6号

ラグジュアリー道をエッジィにひた走る『シュプール リュクス』も6号目を迎えました。
美と知の遊び場、パーティへ!
は、パーティ・シーズンも間近に迫ったこの時期、とても参考になる……人は、きっとかなり裕福な方だと思いますが、庶民の私も楽しく拝読しましたよ。特にグラマラスなドレスを作るロリス・アザロのデザイナー、ヴァネッサ・シワードをフィーチャーした特集ページが興味深かったな。今的なのに普遍性もある、アザロのドレスはとても魅力的で、現在、メゾンをひきいるヴァネッサのクリエーションを支えるブランドのスタイルに感銘を受けました。
ラグジュアリーな検査マニアが増えている
は異色の特集。サブタイトルには「宝石のように、車のように健康に投資する時代」とありました。身体が資本、とはわかっているけれど、魅惑の贅沢品に惑溺されて、ついつい「予防医療サービスを買う」ことは後回しになりがちです。今年のボーナスで高額人間ドックを「買う」のも、賢い選択かもしれません。

 
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2007-11-13 | 固定リンク | コメント (0)

今年は漱石本の当たり年? 漱石関連の新書を2冊。『漱石夫妻 愛のかたち』&『直筆で読む「坊っちやん」』

Book110601 2007年の今年は、夏目漱石の生誕から140年、教職を辞して朝日新聞社に入社してから100年になるそうです。
まあ、よくよく考えるとそれほど「キリのいい年」ってわけでもない気がしますが、現在、江戸東京博物館にて「文豪・夏目漱石―そのこころとまなざし―」<~11/18(日)まで>という大規模な展覧会も開かれているし、漱石関連の新書も2冊、ほぼ同時期に発売されました。今年は文豪・漱石が改めて注目されているんですね。
それで今回は、その新書2冊が(私が漱石好きだというのを差し引いても)滅法面白かったので、まとめてご紹介したいと思います。

漱石の孫、松岡陽子マックレインさんが著した『漱石夫妻 愛のかたち』は、漱石の素顔がわかる貴重な証言集でした。ただし、孫は全員、漱石の死後に生まれているので、陽子さん自身は漱石その人に会ったことはありません。そうしたわけで、陽子さんの母である漱石の長女・筆子や、一時期一緒に住んでいた漱石の妻・鏡子をはじめとした「生前の漱石を知る人々」から聞いた思い出話を集めた内容となっています。
陽子さんは後世に伝えるため、意識的に証言を集めており、また、彼女自身、学者であることが影響しているのか、非常に丁寧に「証言の収集」をされているので、価値ある1冊だと思います。
家族が「お父様の病気」と呼んでいた、漱石の心の病の原因を探ったり、祖母であった漱石の妻・鏡子の「悪妻説」についても、実際に接した鏡子の姿を証言しつつ、なぜそうした説が広まったかを分析。故人の名誉を挽回するに足るエピソード満載で、肉親ならではの視点に心温まりました。鏡子お祖母さんから、漱石の悪口を聞いたことは一度もなかったという話も興味深かったです。
ちなみに、心の病から、突然カンシャクを起こす漱石にビクビクしていた子供たちだったけれど、気分が良い時の漱石は、やさしく、愉快な父親であった様子。特に「漱石の入浴失敗談」というエピソードが良かったなあ。お風呂が初めて家に来た日、今か今かと待ちわびていた漱石が、まだ下のほうの水は冷たいのに、勢い込んでお風呂に飛び込み、冷たさに「ひゃっ」と叫んで、素っ裸で飛び跳ねながら部屋に戻った。その姿を見て、家族も漱石自身もお腹を抱えて笑ったそう。明治の家族の、微笑ましくて幸せな光景ですね。

もう1冊は、なんと、漱石自身の肉筆原稿をオールカラーで楽しむ(!)という、画期的趣向の『直筆で読む「坊っちやん」』です。
親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている――。有名すぎるこの一文で始まる「坊っちゃん」。名作中の名作です。しかし、本書で解説を書いていらっしゃる秋山豊さん(岩波書店「漱石全集」編集に関わった編集者)によると、直筆原稿を目を皿のようにして通読した人は、多く見積もっても6人程度だ、と書いています。著作権が切れた今では、様々な出版社から出版されている「坊っちゃん」ですが、その元は直筆原稿の「坊っちやん」ではありません。つまり、漱石による正真正銘のオリジナルを知る人はほとんどいない、ということです。
誤字、脱字が多く、癖字が強い作家として知られる漱石ですが、この原稿を熟読してみると、例えば、どうやら「小供」と「子供」を書き分けていることが見て取れるそう。どう書き分けているのかは、本書の解説を読んでいただくとして、しかし、誤字、脱字、癖字が多いことで、漱石の「几帳面に書き分けた意識」は見過ごされ、また、本人自身も書き分けたわりに無頓着だったのか、各出版社が校正した後、表記は「小供」もしくは「子供」に統一されて発表されました。しかも出版社によって表記の基準はそれぞれ異なっているそうです。つまり、私たちが読んだ「坊っちゃん」と漱石の書いた「坊っちやん」はちょっと違うわけですね。
驚くべき事実は、他にもあります。四国・松山の方言をよく表している「~ぞなもし」という名文句。これもどうやら、漱石自身の思いつきではなく、盟友・高浜虚子の赤入れによるものだったらしい。というのも、原稿に足されている赤い文字の「ぞなもし」は漱石の筆跡ではなく、虚子の筆跡である可能性大だから。びっくり仰天です!
といった、知られざる「坊っちやん」誕生までの舞台裏を楽しめます。漱石の癖字一覧表(?)もついているので、直筆原稿通読にチャレンジも出来ます。えーっと、私は途中で挫折しましたが……。
それから、こちらも漱石の孫で、長男・純一の息子である夏目房之助さんがエッセイを寄せていらっしゃいました。ちなみに、房之助さんも直筆原稿通読に挫折したそうです。ちょっとホッとしました。

『漱石夫妻 愛のかたち』(朝日新書)定価735円
松岡陽子マックレイン著

お勧め度 ★★★★★

『漱石夫妻 愛のかたち』を発行している朝日新聞社出版局のサイトはこちら。
http://opendoors.asahi.com/

『直筆で読む「坊っちやん」』(集英社)定価1260円
夏目漱石 著

お勧め度 ★★★★★

『直筆で読む「坊っちやん」』の詳細はこちらへ。ご購入もしていただけます。
http://www.s-book.com/plsql/com2_detail?isbn=9784087204148

Book110602 ●マガジン見どころ、読みどころ

エクラ
2007年 12月号

創刊第3号を迎えた『エクラ』。ますます面白くなってきました!
大特集 世界でただひとつ。「オーダー」こそ大人の特権
は、「バーバリー・トレンチコート」のご注文報告記、ジュエリーのオーダー&リフォーム例、オーダー上手な香港エクラのお話などなど、「誂える」ことの魅力が伝わる、読みごたえたっぷりの特集でした。確かに贅沢だけども、価格に見合う満足と快適さを得られる楽しみは、大人ならでは、ですね。「オーダーメイド・レストラン」という記事も興味深かったです。
恒例の「別冊付録 極上通販 エクラプレミアム」は
エクラ厳選おいしいもの通販 冬のこだわり美味をお届けします
と題して、ワインにぴったりの「上野万梨子さんおすすめチーズセット」、金沢の料亭自慢の逸品「銭屋 能登豚みそ漬け」などなど、和洋中、厳選の「おいしいもの」がずらり。甘いもの好きの私としては、マクロビオティックのヘルシーアイス「CHAYA Macrobiotics アイス クーテ」に特に心惹かれました。コクがあって甘いのに、超ヘルシー。なんて素敵! 6つの味が入って3445円でした。お取り寄せしちゃおっと。

 
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2007-11-06 | 固定リンク | コメント (0)

 
 
 
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