イケメンが太っちょさんに。コンプレックスは愛の扉を開けないのか? 『デブになってしまった男の話』
鈴木剛介さんの最新小説『デブになってしまった男の話』は、初めて深刻な「コンプレックス」を抱えてしまった男性が、愛とは何か、自分自身とは何か、優しさとは何か、という極めてシンプルかつ重大な難題を見つめていく物語です。
……と、ざっと紹介してみましたが、この紹介は無難だし、たぶん、大きく間違っちゃあいないと思うけれど、少し薄っぺらく、本書の読みどころ、重要な点をボカしてしまうようにも思うので、私はあえて、こう紹介したいんです。
外見の良し悪しは、人間の精神にどれほどの影響を及ぼすか、という物語だと。
本書の主人公・大介はさわやかな外見のイケメン大学生で、ゲーム感覚で次から次へと女性を落とすハンターのような男の子。女の子の心をつかむためなら、どんな性格の男にもなるし、どんなクサいセリフでも平気で吐ける、軽いナンパ男です。ただし、ステディな彼女は1人だけ。他の女の子たちは、惚れさせても肉体関係は絶対に持たないという、彼なりのルールはありました。しかし、そんな彼を本気にさせる1つ年下の女子学生、直美が現れて……。
ここで彼女が「好きよ」となびいたら、単なるベタな恋愛小説になるところ。直美が「好きよ」と言わなかったとしても、2人の間に事件だとかなんだとかがいろいろあって、最後にハッピーエンドで終われば、それもまたベタベタな展開です。しかし、この小説は違うの。「ええええ?」という展開になるんです。
確かに大介は初めての失恋を経験してショックを受けますが、社会人になり、今度はもっとタチの悪い(?)ナンパ男に変貌します。ザ・モテモテ。もう、ステディな恋人なんて作らず、手当たり次第に手をつけて、モテ男道を突っ走る。ところがですね、あろうことか、ある理由で、突然大介は30キロも太り、立派な「デブ」となってしまうんです。その後は、ダイエットを試みる→すぐリバウンド→がんがん食べる、を繰り返して、恋愛どころじゃなくなります。
ここで疑問がわいてきます。
デブは恋愛をしちゃいけないの?
デブに恋する資格はないの?
そんなことはありえない。あっちゃいけない。だって、人間は中身が大事なんだから!
……はい、それはグウの音も出ないほどの正論であります。でもね、イケメンだった自分が忘れられない大介は、「デブ」体型が気になって気になって気になって、ナンパするどころか、堂々と電車にも乗れなくなり、女性とまともに目を合わせられないほど打ちのめされて、絶望的な気持ちでこう考えるようになるんです。
自分にはもう、人並みの幸せは訪れないんじゃないか――?
つまり、外見の変化は大介の性格をも根本的に変化させた。であるからして、今まで考えてきた恋愛や自分自身のあり様だって、ガラリと変わるというわけ。
自分のアイデンティティがどれほど外見に支えられてきたのか、どれほど無自覚に「強者」の物の見方をしてきたかを思い知った大介の心の葛藤が、すごくリアルに浮かび上がってきて、胸に突き刺さります。ベースはユーモラスですが、テーマは意外に重く、ズシッとくる作品です。とはいえ、恋愛や自分自身の本質を見つめるなかで、優しさの本質が見えてくるという、救いのあるストーリー展開なので、正直ホッとしました。
著者の鈴木さんにとって、『THE ANSWER』『自殺同盟軍』に続く3作目の小説になる本作。前2作もぜひ読んでいただきたいけれど、『デブになってしまった男』はより広い読者に支持されそうな予感がする、エンターテインメント性あふれる作品です。この作品が、気鋭の作家である鈴木さんの次なるステージへのジャンプ台になるといいな、と思います。
『デブになってしまった男の話』(求龍堂)定価1260円
鈴木剛介 著
お勧め度 ★★★★☆
『デブになってしまった男の話』を発行している求龍堂のサイトはこちら。
http://www.kyuryudo.co.jp/
下の「コメント」をクリックして、人名欄はペンネームを、URL欄は不要、コメント欄にご意見を書き込んで「投稿」をクリックしてください。
トラックバックについて詳しくお知りになりたい方は、「トラックバックについて」をクリックしてご確認ください。
2006-10-24 | 固定リンク
トラックバック
このページのトラックバックURL:
http://www.typepad.jp/t/trackback/160820/6593664
このページへのトラックバック一覧 イケメンが太っちょさんに。コンプレックスは愛の扉を開けないのか? 『デブになってしまった男の話』:
コメントを投稿
*投稿された内容の修正、削除の依頼は一切応じられませんので、投稿される前に十分にご確認ください。
*「投稿」ボタンは1度だけ押してください。

コメント
このレビューをみて、この本を読んでみました!おもしろかったです。普段、自分が読もうと思わないジャンルの本を知ることができるので、毎回楽しみなんです。これからもとっておきの1冊。期待してます!
投稿: ori | 2006/11/30 20:48:26