人生は、誰であってもままならない。老いも若きも、それぞれジタバタ。ユーモアと冷徹な観察眼で描かれた、冨士本由紀さんの最新刊『圏外同士』
s-woman.netの読者の皆様、初めまして!
今週から、本&雑誌のご紹介をさせていただくライターの中沢です。毎週、いろいろなジャンルの本をクルージングし、その本について愛情と独断と偏見でもって、一言、二言、書かせていただきます。本や雑誌について皆様と、時に激しく、時にまったりと意見交換できたら、とってもうれしいです。お忙しいとは思いますが、よろしければ、毎週このページにお立ち寄りくださいませ。
さて――第1回目の本は何にしよう?と、たくさんの本を買い込んで、うんうん唸って、悩みに悩んだ。そして、最終的に「最初の一冊」に冨士本由紀さんの最新刊『圏外同士』をチョイス。いくつもの面白本&ステキ本をおしのけての一冊です。面白くないとは言わせません!
夢破れたデザイナー志望の夏日乃絵と、男としてもビジネスマンとしても魅力に乏しい定年間近の雇われ社長、蕪木秀一郎。この接点のなさそうな、いや、事実、全く接点のない人生を歩いてきた"圏外同士"の二人は、ある日、秀一郎のちょっとの勇気と、乃絵のちょっとの弱気が絶妙に交差した瞬間、同じ職場で働く"圏内同士"の人間関係に。ただし、それは秀一郎が望んだ「恋愛」という"圏内同士"ではなかったものだから、乃絵にとって単に「食い扶持」を世話してくれたオジサンに過ぎない秀一郎は、愛憎半ばのセクシャルハラスメントをどんどんエスカレートさせていって・・・・。
乃絵の夢が破れる痛々しい様子や、力ある者にこびへつらい、部下にはことのほか尊大な秀一郎の無様さを、冨士本さんはユーモアでくるみながらも、冷徹な視線でリアルに描く。また、見え透いたおべんちゃらと、背筋も凍る意地悪をするっとやってのける会社の人間たちの描写もリアル。クールで都会的な雰囲気の会社で働いている人は、「いないよ、こんな人たち」と思うかもしれないけれど、「いるいる、いるよね、こういう人たち」とうなずく人も多いはず。そして、「っていうか、ひょっとすると、私もやっている!?」と、ハッとするかも。もとより、口の悪い私など、いろんな場面で冷や汗たらり、だ。
ちょっと前なら「乃絵目線」で読んだと思うが、30代も後半に突入した私は、意外にも(?)「秀一郎目線」で読む場面が多かった。手揉みしながら、力ある者にしがみつく秀一郎の生き方を、無様だ、と笑って済ませるのは簡単だが、それは不遜というものだろう。そうした生き方を「間違っている」と無邪気に言うことは私には出来ないし、そんな秀一郎に見切りをつけ、自分の世界に生きがいを見出す家庭内別居状態だった妻の気持ちもまた、わかるような気がした。なぜなら、中原中也じゃないけれど、汚れちまった悲しみに、なすところもなく日が暮れる日があることを、もう知ってしまっているからだ。
絶妙なストーリーもさることながら、「階層」のディティールのあぶりだしが秀逸な本作。「階層」を緻密に描く作家として、私が真っ先に思い浮かべるのは桐野夏生さんだが、これからはこの点でも冨士本さんの作品に注目したいと思う。ただし、冨士本さんは寡作の作家なので、次の作品が届くのはいつになるのかなあ・・・・。
一つだけ気になったのは、秀一郎の会社の人々に比べ、乃絵を助けるファッション業界者の描写が「良い人」過ぎるように思えたこと。というわけで、お勧め度は★4つです。
『圏外同士』(集英社)定価1680円
冨士本由紀 著
お勧め度 ★★★★☆
『圏外同士』の詳細はこちらへ。ご購入もしていただけます。
http://www.s-book.com/plsql/com2_detail?isbn=4087748014
●マガジン見どころ、読みどころ
BAILA 6月号
雑誌好きの不肖・中沢が、集英社の女性誌への意見・感想を勝手気ままに述べるプチコーナー「マガジン見どころ、読みどころ」。気分次第でお届けいたしま~す。
さて、先週末に発売された『BAILA』6月号は5周年記念特別号。付録に、スワロフスキー・クリスタル・ストーンつきのハートチャームがついてます。
ジーンズ好きの私が真っ先に読んだのは、BOOK in BOOK「オール・アバウト・最愛デニム」。ジーンズ、何枚持ってんだよ!と自分で思うが(そして、そのわりに、いつも同じジーンズ履いているけど)やっぱりまた欲しくなっちゃった。最終ページに「掲載ジーンズ一覧」が載っているのが親切丁寧な特集であります。
それと、今年はワンピースがマストだから、スタイリスト・辻直子さんのワンピース集中講座も良かったよ。辻さんのスタイリングはキュートで大好きだから、すでに2枚買っちゃったのに、また買っちゃいそう。その他、「横顔」がきれいに見える、まとめ髪の特集も読んで損なし。大人っぽいアレンジがステキでした。
下の「コメント」をクリックして、人名欄はペンネームを、URL欄は不要、コメント欄にご意見を書き込んで「投稿」をクリックしてください。
トラックバックについて詳しくお知りになりたい方は、「トラックバックについて」をクリックしてご確認ください。
2006-05-16 | 固定リンク
トラックバック
このページのトラックバックURL:
http://www.typepad.jp/t/trackback/160820/5579582
このページへのトラックバック一覧 人生は、誰であってもままならない。老いも若きも、それぞれジタバタ。ユーモアと冷徹な観察眼で描かれた、冨士本由紀さんの最新刊『圏外同士』:
コメントを投稿
*投稿された内容の修正、削除の依頼は一切応じられませんので、投稿される前に十分にご確認ください。
*「投稿」ボタンは1度だけ押してください。

コメント
「汚れちまった悲しみに
なすところもなく日が暮れる」
そうですねぇ。。
私も30代後半、中沢さんと同い年です。
あっちの気持ちもこっちの気持ちも身にしみてくる年齢でしょうか。
これから毎週楽しみにしています。
投稿: Fran | 2006/05/16 9:55:40
>Fran さん
初めまして。
コメントどうもありがとうございます。
若くもなく老いてもなく。
30代半ばを過ぎると、結構、視界に見える
景色が変わりますよね。
これからも、どうぞよろしく。
また、立ち寄ってくださいね。
投稿: 中沢明子 | 2006/05/16 17:33:02